薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾六
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「…………」

――…連絡通りだ…屯所が騒がしい…俺の中でざわめき立つ

なんて渇きを覚えさす…。



***

「おい、知り合いなのか?」

「よく見ろ、新八。君菊さんだ
島原で会った時と服装は違うが、顔は同じだろ?」
「な……何ぃ!?」


あんまりびっくりして
新八は後ろにひっくり返りそうになっていたが、君菊さんの顔をまじまじ見ていた

視線に気づいてにっこり微笑む君菊さんだが千姫の話は続く


「この国には、古来から鬼が存在していました。幕府や、諸藩の上位の立場の者は知っていたことです」


皆、風間達という鬼の存在を
認めた以上、それは
驚くべきことじゃなかった。
彼女も、多分新選組の皆も薄々わかっていたことだ。


「ほとんどの鬼達は、人々と関わらず、ただ静かに暮らすことを望んでいました。ですが……鬼の強力な力に目をつけた時の権力者は、自分に力を貸すよう求めました」

「鬼達は……それを受け入れたんですか?」

「多くの者は拒みました。
人間達の争いに、彼らの野心に何故自分達が加担しなければならないのかと…ですが、そうして断った場合圧倒的な兵力が押し寄せて村落が滅ぼされることさえあったのです」

「ひどい……」

「鬼の一族は次第に各地に散り散りになり、隠れて暮らすようになりました
人との交わりが進んだ今では
血筋の良い鬼の一族はそう多くはありません」


「それが、あの風間たちだと言うことかな?」


千姫は小さく頷く


「今、西国で最も大きく血筋の良い鬼の家と言えば、薩摩の後ろ盾を得ている風間家です。頭領は、風間千景」

「風間千景……」

「そして、東側で最も大きな家は雪村家」
「えっ!?」

「雪村家は、滅んだと聞いています。ですが、その子はその生き残りではないか。私はそう考えています
千鶴ちゃん。貴女には、特別
強い鬼の力を感じるの」

「そんな……だって、私は…」
「ううん、貴女は鬼なの。ごめんね……これは間違いないの…それは"彼も認知"しているわ」

「え?…、……ぁ…!」


千姫の視線が、縁側の死角で
暗闇に紛れた俺を捉えた

こんな時に話を向けないでほしい…せっかく隠れていたのに


「鬼の中でも唯一、交わりを経て種を残すは"共食い"と言われた性故に…種は僅かしか残せなかった、多くは喰い殺してしまうから。…だから同族とも人間とも関わらず、地に着かず…その存在すら知らせまいとする……そして鬼の間で各地で稀な存在を見られた事もあり放浪鬼と呼ばれた鬼。――もう…貴方しか居ないのね…」

「流石……千姫……俺は犠牲の上に成り立ち存在している浪神鬼…更には…人間で飽きたらず西と東の鬼を喰らった…だから共には行けない」

「分かってるわ、でも彼らは
それを同意の上で身を預けた…
これからも貴方が望めば…」
「望みたくない……俺自身は」

「………」


中で驚く皆は余所目に
俺は千鶴ちゃんを一瞥してから
千姫に近寄り、薄く笑んだ…

望みたくない…と…
本性は抗えなくとも


「それに……俺は先の未来で造られた紛い物…今でこそやっと東と西との鬼と血に交われたが少々…渇きが酷すぎましてね」

「――…浪神鬼…貴方は血の交わりをも経て"鬼"となるの…その渇きも苦しみも貴方と言う存在が確かに在りたいと願うから…繋ぎたいから。そして今も強く感じる筈……私との交わりも望んでいるでしょう…?」
「千姫様!?」

「!……俺は……、…っ」


驚く、くノ一の君菊さんか…
俺の手を取り安心させるように笑む千姫の意図は分かる…彼女は俺が望めばくれるのだろう、その身を

だけど、まだ…人しての性が
それを許さない
こんな躯にした人間は憎くとも
まだ人で在りたい…
事実は変えられなくても
俺は人として生きてきたことも
真実なのだから


「……ウチの掛かり付け医を誘惑してやんねえでくれないか?…医者の癖してコイツはどうにも女癖が悪いんでな」
「!!…歳さ」

「そうさな、確かに色んな意味で悪いな…新八の次にだが」
「新八さんより悪かったら
前代未聞だもんね?」

「…お前らな…」


周りの現実が聞こえなくなりかけてきた瞬間、歳さんに肩を強く引かれ現実に戻された

彼らの元で座り落ちると
心配そうな皆の表情が映る、欲が剥き出してたのか情けない


「……話を戻しましょう…縁さんは勿論、千鶴も純血の鬼の子孫であれば風間が求めるのも道理です、鬼の血筋が良い者同士が結ばれれば、より強い鬼の子が生まれるのですから」

「なるほど……嫁にする気か」

「風間は、必ず奪いに来るでしょう今の所、まだ本気で仕掛けてきてはいないようですが、遊びが何時までも続くかは分かりませんそうなったとき貴方達が守りきれるとは思わない
例え新選組だろうと、鬼の力の前では無力です」

「なあ、千姫さんよ。
無力ってのは、言い過ぎなんじゃねぇか?」

「新八の言う通りだ。そいつはちっとばかし、俺達を見くびり過ぎだぜ?」


「今まで戦う事が出来たのは浪神鬼である縁さんの狂乱を恐れていたから、彼らが本気ではなかったからです」


そう言って一度俺に向ける視線
俺は戦っても、精々足止めくらいにしかなっていないのにな


「本気になってもらおうじゃありませんか。本物の鬼の力、見せていただきたいものですね」

「山南さん、それは……!」

「言っておくが……此処は、
壬生狼と言われた新選組だ
鬼の一匹や二匹相手にしたってびくともしねえんだよ」

「そうですね。こっちだって、泣く子も黙る鬼副長が率いてますからね」
「お前は一言二言多いんだよ」



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