薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾六
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慶応三年 六月


それからすぐに
私の怪我は治ってしまった。

縁さんの助言もあって、やはりこの体質の事も知らない山崎さん達が顔を合わせる度に心配してくれてるから包帯だけは巻き続けているけど……。

でも傷はもうどこだったのか
他と見分けがつかない


(何かあれば直ぐに呼んで下さい…貴方達を頼りにしてます)

((((…………))))



そして……伊東さん達は御陵衛士として新選組から離隊した

まさか縁さんが救護隊の源伎さん達を置いて出て行くとは思わなかった……悲しかった

私に心配を掛けまいと思って
その時まで言わなかったんだと
分かってる……でも、何時も以上にあの人が遠くに言った気がしてならなかった

今までの支えまで無くなったかのようで 、新選組がばらばらになってしまったかのようで、私の心にも言い知れない不安が募っていく……。

何かが起きそうな気がする。


……それがなんなのか、
私にはまだ分からないけれど


「……そろそろ寝なくちゃ」


こんなことでは駄目だ
自分にそう言い聞かせるように、呟いた。今夜はやけに頭が冴えている。

……何だろ?気持ちが高ぶっているみたい。昼間、小太刀の稽古をした所為かな?

でも、これで明日の朝、寝坊したら何やってるんだろうって感じだよね。

この部屋ではもう、寝起きは共に出来ないけれど毎日来てくれる彼に心配かけてしまう。

――とにかく、頑張って寝よう
そう思って再び目を瞑ろうとした時だった


「今いいか?ちょっと広間まで来い」
「は、はい!?」


土方さんだ。
私は慌てて飛び起きた


「なんでしょうか?」

「おまえに客だ
来ればわかる。早くしろ」
「は、はい!」


お客さんなんて、一体誰だろう
そう思いながら、広間に入ってまず驚いたのが――。

近藤さん、沖田さん、原田さん
永倉さん、山南さん。
吾妻さんに霧賀埼さんまで…
新選組の幹部が
勢揃いしていること。


そして彼らと
相対していたのが……。


「千鶴ちゃん、お久しぶり〜!」
「お千ちゃん!?」


お客さんって、
お千ちゃんだったの!?
京の町で知り合った
私と同じくらいの歳の女の子

人を圧倒するような独特の空気を持っていて、私の男装も直ぐに見抜いた彼女だけれど……。でも、どうしてお千ちゃんが此処に?
しかも、お千ちゃんの隣には
忍び装束を着た女の人が居る。


「ああ、彼女は私の連れよ。
まあ、護衛役みたいなものだと思ってね」


護衛役?
ますます訳が分からない。

……新選組の人達は私と
お千ちゃんのやり取りを見守っている。ひとまずこの場は、任せてくれるらしい。


「それで、お千ちゃん。
ここには何の用で来たの?」

「私ね、貴女と縁さんを迎えに来たの……と言っても、あの人は居ないみたいだけれど…」


広間に戸惑いが広がる
眉をひそめる人、口をぽかんと開けている人、なんだそりゃ、と舌打ちしている人もいる

中でも一番、困惑していたのは私だった。


「えっと……どういう意味?
お千ちゃんの言うこと、よくわかんないよ」

「まだ状況を理解していないのね。でも、心配しないで。私を信じて?」


お千ちゃんを疑っている訳じゃない。ないけど……。


「時間がありません。すぐに此処を出る準備をしてください」


お千ちゃんの隣にいた
女の人が言った


「ちょ、ちょっと待って下さい
どうして、私が貴女達と一緒に?」
「そうだぜ、訳がわからねぇ!いきなり訪ねてきて会わせろって言い出すし会わせたら、いきなり連れてくだ?頼むから、俺らにも理解できるように説明してくんねぇか?」

「私からもお願い、お千ちゃん」


私は、正面から
お千ちゃんを見つめる


「……そうね。じゃあ
順を追って説明しましょう」


お千ちゃんは、皆をぐるっと見回す。私にだけじゃなく、この場に居る全員に聞いてもらおうということらしい。


「あなた達、風間を知っていますよね?何度か刃を交えていると聞きました」

「……なんでそのことを知ってる?」

「ええと……この京で起きていることは、だいたい耳に入ってくるのです」

「なるほど。お前も奴らと似たような、胡散臭い一味だってことか」
「あんなのと一緒にされると困るんだけど。でも、遠からず……かしら」

「……まあいい、風間の話だったな」

「あいつは、池田屋、禁門の変、二条城と……。何度も俺達の前に現れている薩長の仲間だろ」

「仲間って言うより、彼らは彼らで何か目的があるみたいだったけどね」

「どっちにしても、奴らは新選組の敵だ」

「では、彼らの狙いが彼女や縁さんだということも?」


お千ちゃんの目が私を見据える
……なんだろう?
胸の真ん中がどきどきする。

この先の話を聞きたいような
聞きたくないような。
秘密の核心に
近づいている予感……。


「承知している。彼らは自らを【鬼】と名乗っている。信じているわけではないが……」

「ですが、信じるしかないでしょうね。三人が三人とも、人間離れした使い手ですから」

「……あはは、面白いな。
山南さんが、そういうこと言うんだ?」


…………。広間に微妙な空気が流れた…沖田さんのことだから、特に悪気はなかったんだろうけれど。


「お千ちゃん。それで、あの……」

「彼らが鬼という認識はあるんですね。ならば話は早いです
実を申せば、この私も実は人ではありません。私も鬼なのです」


お、鬼!?お千ちゃんが…?


「本来の名は、千姫と申します」


そう言って、お千ちゃんは優雅に一礼した。まるで止ん事無き身分の姫君みたいだった


「私は、千姫様に代々仕えている忍びの家の者で御座います」

「なるほどな。やけに愛想が
良いと思ってたが、てめえの狙いは最初っから新選組の情報を仕入れることか」

「さあ、何のことに御座りましょう?」


土方さんに睨まれても、彼女は少しも動ぜず、にっこり笑って小首を傾げてみせる
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