薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾六
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「長、こんな所に居たか」
「探しましたよ」

「?……どうしました」


数十分して新八と左之さんと
別れた後、俺は
中庭にて今後の事を思案中

だがそんな折に琥朗と悠乍が
俺を探していたらしい


「雪村君の事なのですが…」
「!!…彼女に何か…?」

「嗚呼、勘違いはしないでくれ彼女に何があった訳ではない」

「では…」

「長に対して…精神的なショックとやらが酷いのでしょうが様子が少し変でしたので…」
「……その事か…」


千鶴ちゃん……。

そうだ…昨日、あんな大怪我をした…外傷は治ったとしても
とても酷い衝撃を
受けさせてしまった…


「話しておくべきだな…彼女は何処に居るか分かりますか?」

「…長の事でしょうと思いまして、救護室の隣部屋に…源伎と谷沢とで待機しているかと」

「…そうですか…ありがとう」

「縁さん、彼女を想うのは良い…だがアンタが居なくなれば俺達は道を失う…分かるな?」


琥朗も悠乍も、俺を見て
とても悲しい表情をしていた…

嗚呼…この子達にも沢山の心配を懸けた、負担を懸けた…
そして俺に何時までも付いてきてくれる教え子達の為にも
少しは自重しなければな

俺だって早死にはしたくないさ


「これからまた、忙しくはなるでしょうが、自重しましょう
貴方達に心配かけてばかりでは長だなんておこがましい身」
「「………」」


次いで琥朗と悠乍の頭を撫でてあげたら二人は表情綻ばせ安堵

…俺も安心した、やはり
教え子を持つのも悪くない。





* * *


―ガララッ…
「!、あ……縁…さん…」

「…千鶴ちゃん……
源伎と谷沢はどうしました?」

「そろそろ縁さんが来るから往診に回っておきます、と…」
「…そうですか」


気を遣わせてしまったか…
今、彼らが往診に回る予定など無い筈なのにな…まったく…

取り敢えず、俺が入ってからもずっと不安気だった千鶴ちゃんの目の前に腰を降ろした


「…………」

「昨日は辛い目に合わせてしまい申し訳ありません…今の具合は如何です…?」

「……縁さん…」

「二人から傷の具合は聞いています……あの時は俺が離れたばかりに悔いるばかりだ……とても辛い思いをさせましたね…」
「っ!?……そん、な……わ…わたし……よりっ…縁さんが…私、なんか………庇ってっ………あんな…大怪我を…っ」


ポツリポツリと零れる言葉
…そして俯き、滴る涙

辛かっただろう…怖かっただろう…俺は側に居てやれなかった…自分の欲に堪えかねず、大切な人達を傷付けてまで保った己が身


「千鶴ちゃん…大丈夫…、俺は常人の身体では無い…臓器を壊したのは久しぶりでしたが流した血の色然り、化け物みたいな躯ですから…今は、こうして」

「っ……」
―ガバッ…
「!………千鶴ちゃん…」


背に回された細い腕…唐突に千鶴ちゃんは俺に抱き付いた…

大粒の涙を流しながら酷く、身体を震わせながらも強く俺を抱き締めるその腕に…ふと…場違いにも愛おしい感情さえ感じて


「…ぅ……っ……、………悔しい……です…っ」

「…何故…」

「……助けられてばかりっ…何も…出来なかった…自分が…」


――…俺よりも一回り小さな
彼女の身体を抱き締めた
千鶴ちゃんの瞳から流れ落ちる
涙が綺麗でも…止めたくて

俺などの為に
流していい代物ではない


「俺は……千鶴ちゃんに傷を負わせてしまった事が悔しい…」

「私……怪我をしても…すぐ…に…塞がります…っ」
「でも…心には残ってしまうでしょう…」

「!!……」


僅かに上げた彼女の目元に掌を添え親指で伝った涙を拭った

次いで強く抱き締め叶わぬとて辛い気持ちを少しでも俺に分け与えてくれたならどれだけ楽なことか

彼女がどれほど悲しんでいるか今の俺には分からない…
俺の様な存在は分かりたくとも…分かってやれないだろう


「俺はこれから長く側に居てあげられない…だけど貴女が悲しんでいる時は…許されるのならば、こうして傍に居ましょう」
「………」


だが…こんな俺でも出来る事があるのだろうか…

彼女の為にも
――…皆の為にも。



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