薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾六
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そして、俺は話の後すぐ
逃げるようにして救護室に戻り
机の上で頭を抱えた

何とも…選択権がなかった話だ
条件に条件を重ねて
俺だけは新選組の出入りを
許す、だなんて
伊東派に優遇されたみたいだ


「…長、大丈夫ですか?」
「弦之助……大丈夫ですよ」

「なら…いいんすけど……あ
そういや永倉組長と原田組長が
呼んでるんですけどね」

「「………」」


弦之助が手で示す先は出口
彼が言う通り
左之さんと新八が顰めっ面で立っていて俺は苦笑がふと浮かぶ


「弦之助、暫く出るので
此処は頼みますよ」
「…了解です」


席を立ち二人の元に歩み寄り
場所を移動するよう進めた
なるべくプライベートでも
伊東派の人間に聞かれないようにせねばなるまい……他者に聞かれても気分が悪い





* * *


「此処なら、怖がって誰も来ないでしょうね…」

「調剤室の奥にもう一部屋
設けていたとはな…」
「…薬の量も増えてんな…」

「人を蝕む病は数知れませんからね……"新選組を預かる医者"として…何時でも対応出来るようにはしておきたいんです」
「!!?…縁…」
「……だったらなんでだ」


棚に並べられている調合済みの薬剤を見据えていれば、隣からは怒り押さえ込むような声が響いた…どうやら新八からだ


「しん…」
「縁も!平助も!俺らに何の相談も無く勝手に決めちまいやがってっ!?」

「新八…勘違いしないで下さい
形は伊東参謀に就きますが
今の俺はあくまで中立
救護隊として孤立した人間だ
どちらの敵にもならない」
「っ!!」
―ガッ…


そう言うと新八は何を思ったか
俺に近寄り、胸倉を掴み上げたがそれ以上に続く撃や言葉は降らない


「………」
「落ち着けって新八、縁に当たろうとするな」

「黙ってろ左之っ…。
今、コイツは自分が孤立したと言いやがったんだぞ…」

「………」
「そりゃぁ…」

「俺達は仲間だろ……?。
…今まで散々俺達が怪我すれば
笑って手当てしてくれて
自分を大切にしろとか」

「……………」

「心配掛けるなとか大切な仲間とか、軽口ほざいときながら簡単に中立だ孤立しただ言ってお前は"俺達が居る新選組"をこうも割り切れるのかよ?!」
「!……新八」


怒りに発された声は次第に止み
胸倉を掴んでいた手は力なく下に降り彼の顔に影が掛かる


「…お前の中で俺は…俺達はっ……そんな物なのかよ…」

「…………」


――嗚呼そうか、その瞳が揺らぐ意味…惑いに噛み合う視線

新八は俺が彼に何の相談もなく
新選組を出て行く事に対して
怒り、悲しんでくれてたのか

ふと、左之さんを一瞥しても
彼も俯き気味で表情暗い


何時にも増して、勿体無い
胸の内が溢れ出そうだ…


―グイッ……トスッ
「!?…縁…」
「お…おい…」


「ありがとう」
「「!!」」


新八と左之さんの腕を力強く引き、二人には少々屈んでもらいながら俺の肩で抱いてやり、そのまま頭を撫でてやった

当然驚くが抵抗は無い


「……そんな訳ないでしょう」
「っ…」

「…嬉しいですよ…そんな風に
思ってくれるなんて…」
「馬鹿野郎…が…」

「……すみません」

「俺は伊東に流されてばっかの縁を見てたら腹が立って仕方ねぇや……どうしてくれんだ?」

「左之さんは難しいですね……責任の取り方さえ教えてくれれば取らせてもらいますよ……」
「軽々しく言うな…」


仕舞いには二人から小声で
餓鬼扱いするな
とも、両耳から呟かれたが
俺が離さない限り離れる様子がなくて、これを子供扱いしなくてどうしようか…

くすぐったい気持ちに
どうしようもなく笑みが零れる


「……左之さんの言う通り
俺は流されてばかりだ…」

「?……」

「自分の意見は通さなかった…どうせ両方の行きゆきが本当に許されるなら別に深く考えなくても良いかな……とね」
「っ…」

「でも間違いでした…そんな怠惰な考えで居ては、心配掛けてしまいますしね」

「縁…」


最後に新八と左之さんの頭を
軽く撫でてやってから
二人から身体を離し、笑んだ


「束の間だけですよ……形が離れてしまうだけ、俺は皆が居る新選組が大好きですから…
俺の知ってる歴史がこの新選組を壊させないよう――…護りに行きます…」


俺の知っている歴史が異なり
在らぬ史実とならぬように

近藤局長の暗殺が成らぬよう…
平助の死が成らぬよう…

俺が出来る限り…何としてでも



「―――……へっ…ったくよ
…勝手に一人格好良く
決めちまいやがって…」
「こんな様じゃ、縁に
餓鬼扱いされても訳ねえな」


…新八と左之さんを見る限り
どうやら納得してくれたようだ

その表情には安堵が浮かんでる



「……俺は寛大ですよ?
二人が寂しくなったのなら
この空いた胸で
何時でも受け止めましょう」
「ばっ?!て、テメェ
からかってんのか!?ひょろい癖して俺みてぇな大の男を受け止めようなんざ…っ」
「まあそう恥ずかしがらずに
いらっしゃいな」


安心した折り、両手広げて新八を抱き締めてあげようとしたら彼はからかわれてると受け止められ恥ずかし気に一歩下がった


「……んじゃ、滅茶苦茶心が傷んじまってる俺を受け止めてくれよ?縁のその寛大な心で、な?」
「はい、どうぞ」


しかし左之さんはそんな新八を見て、ニヤリとしながら俺に抱き付いた…

否、この場合身長差で
抱き締められた…か…

なんか手の動きが怪しいが


「左之?!」
「新八は勿体ねえことするな?
実はこう見えて縁はな、ひょろいんじゃなくて女みてえな良い身体付きしてんだぜ?」
「お、女ぁ?!」

「左之さん冗談キツいですね」


驚く新八を余所に
左之さんの手は腰に辿り着くわ

口角は引き吊りながら颯爽にその手を掴み上げ動きを制ししてやった


「いんや、案外
冗談でも無い…だろ…?」
「………」

「は……?」


油断も隙もない
…変なところで際疾いな…
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