薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾五
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慶応三年 三月


季節は移り変わり、春を迎えた

京の都も、もう春日和
満開に咲き誇る桜の香りが
この屯所、救護室にも
訪れを知らせにやってくる


「縁せんせー!ありがとう!」
「ありがとうございます」

「いえ、また何かあれば
何時でもどうぞ…
お大事になさって下さいね」


本日の患者数はざっと32人
先程の親子で終わった

最近は子供の食中りが酷い

気温が暖かくなってきた為
如何せん、食の注意を
怠ってるようだ…


「お疲れ様でした」

「今日も患者が多かったすね」

「源伎と谷沢もお疲れ様…
……二人も体調に
問題は無いようですね」
「…ご心配…傷み入ります…」
「大丈夫です、俺達は…でも」


それは将軍警護の際に負った
傷の事、拳銃も
受けていたのだから
少し後遺症も心配していた

だが何の問題もなく
月日を巡り、今はこうやって
軽快に動いている姿には
安堵ばかり


「……救護の隊は許しますが
別働隊から貴方達は外します
この意味は分かりますね」

「「………」」

「別働隊は人を助ける隊ではない…これから先に見えるは人殺しの隊…。まだ若い、将来ある二人は医者だ、人を救い、助ける人間…貴方達が身体を這ってまで傷つかなくていい、目指すモノに集中なさい」


別働隊は新選組と会津藩の
特別部隊だ…
主は俺の私情で動くが
それに従って
傷つかなくていい筈の二人が
傷付いた…俺の命令だけで
身体を張って、沢山血を流して

千鶴ちゃんを守ってくれて…


「長……お言葉ですが、私は
長の力になれない事が辛く感じます。将来は当然なれど私は自ら進み、縁先生だから慕い、学び、守りたいと思ってます。けして自己犠牲ではありません……縁先生のお力になりたいからついて行きたいのです…」

「…………」
「…俺も……長が凄い心配してくれてるから、そう言ってくれるのは嬉しい…。だけど俺や源伎は先生を慕ってんですぜ?例え別働隊が医の道に関係なくとも、何処までもついて行ってお役には立ちたいんすよ…」


俺を慕う所なんて
何も無いと思ってるのに…

教え子の手を血で染めたくない


「…それでも…
俺の教え子である二人には…」
「長」
「!…吾妻?……!」

「けほっ、…ごほっごほッ…」

「総司…!?」
「巡察から帰ってきて直ぐ
自分の部屋で倒れた…」


突然、吾妻が救護室に
駆け込んで来たと思ったら
後に続いて、酷く顔を悪くした
総司を抱えた
霧賀埼もやってきた


「……寝台に、総司の身体に
あまり振動を掛けないよう…」
「分かった」


指示に頷く霧賀埼に続き
共に入って来た
吾妻は部屋を閉じた

…この病はまだ
伏せていて欲しいと望んでいた
本人を尊重してだろう。


流石…色々あったが別働隊を
任せてからと言うものの
連携が日頃に現れてきたか…


「けほっけほっ……あ……れ
縁…君……、此処…
救護室、…なの…?」

「ええ、吾妻と霧賀埼が
部屋で倒れた貴方を
此処に運んで下さいました…」

「そう…だったん…だ…
二人には…世話をかけた、ね」


総司は俺の後ろに控える
吾妻と霧賀埼に視線を向け
礼を告げれば
二人は頭を下げた


「長、用意出来ました」

「ありがとう、源伎」


結核の進行が進んでる…
本当ならば引き摺ってでも
今は静養させたい

だけど総司はそれを望まない…

刀まで握れなくなったら
彼は道を
失ってしまうだろう

彷徨ってしまうだろうから…


「……何時も、ごめんね」

「謝るくらいならば静養を…と
言いたいんですがね…
症状は何時も通り一時的にしか和らげる事が出来ません…。
相変わらず食事もあまり喉を
通してませんから
栄養剤投与もしておきますよ」

「…はは…何だかよく分からないけど…任せるよ…」

「ええ…少し痛みます…。
……大丈夫ですか?」

「…うん、大丈夫」


総司は元から食が細いから
分かってはいたが
最近は更に
胃に受け付けなくなっている

だから、たまに
総司には栄養剤投与をする
俺の知識の限りをかけて
栄養剤を改良に改良を重ねて
吸収率を上げた薬だ
これを使う幅を広げるのは勿論
お陰で今の所
体重減少や体力低下などは
見られないから
少し安堵してる…


「……総司、此処で
少しでもいいから寝なさい…」

「…縁君、僕が起きるまで
ずっと此処に居る?」

「ええ、居ますよ
だから安心して下さい」
「……分かった…」


額を撫でてやれば総司は
眼を細め、安心したかのように
瞼を閉じてくれた

あまり眠れてないのに…
普段通りに
振る舞って、無茶をする…


「…レントゲンかCTか
MRI検査が出来たら……」


「な…なんすか、それは?」

「嗚呼…先の医学の発展で
開発された医療機器の名です
身体の内部や病原体を
映し出す事が出来るんですよ」
「それは凄いですね…!
それでは、わざわざ腹を
切らなくても
病原体が何処にあるか
直ぐに分かるんですね?」

「はい…まぁ、全てが全て
病原体を映し出せる訳ではないのですがね…、……癌…悪い岩が臓器の後ろにとかに有りでもしたら、見過ごす事もありますしね…」

「……ですが、今の時代ならば
そんな道具があれば
願ってもないでしょうね…」


――…確かにそうかも知れない

目の前に居る総司だって
その機会を透せば
今、何処に進行してるか
分かり、それ相応の
対応が出来るのだから…
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