薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾五
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「こりゃあ、どういう事だ?」
「俺に聞かれてもわからねぇよ」

「……俺にもわからん…
だが一つ言えるのは…
縁が身体を張ったお陰…か…」


歳さんの言葉には
幹部の皆は何となく納得

山南さんは状況が分からず
戸惑っている


「そうか、私も彼らのように……気が触れていたのですね」

「ぅ…げほっ……、いま…は」
「…大丈夫ですが…
貴方は、無茶をして……」


身体を起こそうとしたが
力が入らない…
それを見かねた山南さんが申し訳なさそうな顔をして傷を抑えるよう、背を支えてくれた…


「ぅ……ぁ…く……はぁ…」
「…縁君……。やはり貴方も
同じなのですか…私と…」


山南さんの言葉に顔を上げたが
癪が来る…痛みと苦しみ


「い…え………違、う…
貴方は…人、で
俺、は……化け、物…っ!?」


渇き…、失い過ぎた己の血

徐々にそれは表に出始める
血が欲しいと


「……縁君…」
「!……ぅ"…あぅ"ゥ"…」


「…………」


無くなった、渇いた、空いた
駄目だ欲しい…血が欲しい

渇ききった身体を
血で繋ぎ、満たしたい…っ


―カチャ……スッ
「!?……は………」
「今度は私が君を助けますよ
……無用な遠慮は不要です…」

「!…っ…ング…」


彼はどういう心境で
こんな判断に至ったのだろうか
自らの掌を脇差しで切って
その湧き出す赤い人の血を
俺の口元まで…飲ませてくれた

勿論…我慢なんて欠片も無い
早々に被り付いた


「――…それに、君は
化け物なんかじゃない…
そうですよね…」


そんな姿を見た山南さんは
安心したように目を細め
もう片方の手で
俺の頭を撫でながら

暫く無言だった
皆にも視線を向けた


「……嗚呼…当たり前だ
そいつは、化け物じゃなく
何時も無茶してくれる
大馬鹿な医者だよ」

「大馬鹿な医者か、確かにな」

「まぁそれが縁だかな」

「ほんっと、何時でも
縁君には肝が冷やされるねー」


「――ふっ……取り敢えず
無駄話は後だ、縁は
山南さんに任せて
俺達は急いでそこの死体を
片付けて部屋の掃除だな」


副長の指示を受け
その場の全員が動き出した
その様子を見届けてから
俺達の元に近寄り膝を下ろした


「だいぶ血を失ったか…
よく堪えて動き回ったな…」

「……ぃ…ぇ……」
「……死んだりしねぇよな…」
「「「!?…」」」

「……、…」


驚いた、歳さんが
死と言う言葉を口にした一瞬
この場が静まり返った

片付けていた皆でさえ
此方に視線を向けて…


「……大丈夫…です…俺は
人の…血…が
…失った…身体を…繋ぎます」


心配してくれるのが嬉しかった
心が温かくなった…

今、人ならぬ行為をしてるのに


「それなら安心した…」


事の成り行きを見守って
心底安堵して

温かみをくれて……――





*******

―チュンチュン…

「………、…!…っ…」
「「長っ!!」」

「…尚光…弦之助……」

「縁さん…良かった…
起きてくれて…」
「部下には心配かけないでくれよな…本当に…」

「悠乍…琥朗……」


そして、俺が次に目が覚めて
最初に映った光景は
救護室にもう一つ応急処置
集中処置を取る為に作らせた
別室の部屋

目の前には酷く安堵した
俺を見下ろす教え子達の姿…
俺は重い躯を起こした

ふと圧迫、身体は尚光達が
手当てしてくれたのだろう
肋骨から肩にかけて
堅く包帯が巻かれていた


「…俺は……、っ"!?…」
「動くな、縁…
やられ所が悪かったんだ
無茶をしては傷が開く」

「!…一…ですか…。
………、ご心配なく…俺の常人の物ではないのでね…臓器の傷なら…どうやら塞がってる…」

「…その割に、今回ばかりは
酷く顔が真っ青の侭だな」

「歳さん……アレだけ
流してれば、ね……」


尚光と弦之助が慌てて身体を
支えてくれたが
次に視線が映ったのは

壁際に正座する一と
背を預ける歳さん


「……、尚光と弦之助、悠乍
三人は持ち場に戻りなさい
琥朗は……暫く
誰も入ってこないよう
見張ってもらえますか…」


俺がそういえば
皆は早々にこの場を後にした

彼らは物分かりが早くて助かる
説明をせずとも
分かってくれるから…


―カタン…
「簡潔に言う、山崎君からの
情報で今日にでも伊東の野郎が
隊を割る話を
持ち掛けてくるだろう」

「……、昨晩が引き金ですね」

「……俺は間者として伊東派に
取り入る…だから暫く
隊を抜けるだろう」
「副長に…従順ですね
一の顔が暫く…
見れないなんて残念ですよ…」

「………」


確か、御陵衛士だったか…
間者として一が…

もうそんな時期に入ったのか
…まあ…元々彼は尊王攘夷派
不思議な話ではない


「…で、もう一つ
恐らく伊東の野郎は
個人的にもお前に
目を付けてやがるぜ」

「……背中が
痛くなってきました」
「………」

「すみません、一…」

「…いや…」


少し、悪寒が…一が背中をさすってくれたから少しマシだが

副長…変な事言わないでほしい
変に現実化しそうだ…
地位の利用する為とかだ
きっとそうだ…うん……
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