薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾五
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「俺と…した、事が…
油断…しました…かね…っ」
「血だぁ、血が沢山!」

「っ?!…あ…ぁぁ…縁…さ…んっ」

「…は……大丈、夫…」


…俺の背にへばり付くは
もう隊士とは言えない
血を食らう化け物

千鶴ちゃんを庇うよう
壁に手を付いてその様に耐える
姿に、下から
見ている彼女は涙する

俺は何とか笑んだ…


「ごほっ…っ…すみ…ません…
みっとも、ない……姿…
見せて………っ。

……でも…大丈夫……護る、か…ら……絶対…どんな事にも…堪えて…みせ……る…」
「!!?……だ…駄目ですっ…そんな事したら縁さんが…っ」


…今避ければ、次に俺の背で
血を啜る化け物は
千鶴ちゃんを確実に狙う

出来れば彼女が
逃げてくれれば…――


「おい、生きてるか!?」
「――土方さん…っ!」

「!……遅い…です、ね…」


現実ではそれ程、時間は経っていなかっただろうか

この時、時間が恐ろしく
長く感じた最中
安心出来る声が…歳さんが
真っ先に駆けつけてくれた

一瞬、この光景を見た彼は
驚きと怒りが瞳に宿り
既に刀を抜いている


「!!!」


鬼の副長に気付いた隊士は
後先構わず
そのまま跳躍して襲い掛かろうとするが、歳さんの刀が振り下ろされる方が早かった


―バシュッッ
「ぎゃああああぁッ!!」


隊士の絶叫が部屋にこだまする
だが、相手は歳さんの一太刀を
浴びても自然治癒を
逸脱した羅刹

刀を握ったまま再び立ち竦む


「今の内だ。
早くこっちへ来い!」

「っ…でも、」
「…千鶴ちゃん…走って…
土方さんの…ところに…早く」

「っ…」

…俺は走れないし動けない
でも千鶴ちゃんは走れる
だから彼女の背を押した

再び涙ぐむが、必死な
俺の願いに彼女はなんとか
歳さんの元へ駆け寄ったと同時


「…げほっ、ごほッ!」
「縁!?」

「……だい…じょう…ぶ、」


少し安心したら
再び鉄の味、見たくもない
銀の血…喀血

それを見た歳さんに焦りが見えるから何とか笑みは浮かべ
壁に背を預け
ポケットからメスを構えつつ
廊下に走るは幾つもの足音

他の幹部格の皆も現れた


「なっ…こりゃあ…ひでぇ。
話が通じる状態じゃねえな」

「縁!。……そうさな。
ここまで狂われちゃあ
生かしておけないな」


新八と左之さんも
俺に目を向けた瞬間
驚きと怒りを露わにしていた…

分からない…でも
当然…驚くよな、こんな様…


「新八っつぁん、左之さん!
絶対に抜かるんじゃないぜ!」

「平助、この野郎!
誰にもの言ってやがる!?」

「羅刹だろうと平隊士に後れを取るようじゃ、組長を返上しなきゃなんねぇぞ」


そう言って新選組幹部達が
隊士を取り囲んだ

一分の隙も無し…


―ダッ……ビチャッッ!!

幹部全員が一度に切り込むと
流石の羅刹隊士も
たちまちに絶命した

――…そう言えば
心臓が…弱点の位置か

そんな考えに壁に背を伝って
そんなことを思った
事態収拾かと思ったが
やはり騒ぎを聞きつけた人間は当然他にも居る


「な、なんなんですか、これは!?」

「……ちっ」
「そこの隊士は
どうしたんですか!?
あぁっ、部屋を血で汚すなんて!なんて下品なっ!!

まあ…?!縁君、一体っ」


伊東参謀の声も表情も
引き吊ってる
俺に近寄りたくても
その血みどろな場に立ち往生

だが、構わず歳さん達は
俺に駆け寄ってくれて羽織りを掛けてくれた…

この血は見られたくない
せめてもの救い、有り難い


「幹部がよってたかって
隊士を殺して……。
説明しなさい!
一体、何があったんです!?」


答えられる筈などなく
幹部達は沈黙

伊東参謀の
甲高い叫び声だけが響いた


「皆、申し訳ありません。
私の監督不行届です」
「山南さん……!?」

「っ…げほっ……はっ…」
ドクン…

「縁ッ?!」
「取り敢えず止血だっ」
「……っは…大丈夫…だから」


刺さり所が悪かったのか
背中が、肺の辺りが
ジクジクと痛い
咳き込む度に痛い、渇く

だが、今は山南さんの登場で
そんな事言ってられない


「さ、さ、ささ、山南さん!?
な、なぜ、あなたがここに……!!」


案の定で流石にの参謀も
山南さんの登場に驚愕の表情
口をぱくぱくさせていた
ずっと死んだと聞かされていたのだから、当然か


―シュタッ…
(……すまない、長
勝手に出歩いた羅刹三体の内
二体に手こずった……)
(羅刹をそちらに一体逃がしてしまったようで…
山南総長も出ざるを得なく)
(……分かりました…)

ふと、背後に現れたのは
悠乍と琥朗…。
二人は情報をくれた
こうなった原因、山南さんが
出ざるを得なくなった理由

致し方ないか…



「…その説明は後ほど。とにかく、この場の始末をつけなくては」

「山南さんの所為じゃねぇよ」

「薬の副作用、ってやつなんだろ?しかたねぇって」
「ちょ、ちょっと、
どういうこと!?薬?
一体何の話、山南さん!?」

「……この件に関して
お答え出来ません」


山南さんは伊東参謀に
ちらりと目をやったが答えない
と言うよりも
答えられる筈がないだろう

羅刹と言う人間ではないものを
密かに、この新選組で
作っていたなど……

――…意外にも素早く
冷静さを取り戻した伊東参謀は
すっと瞳を細め
山南さんを睨みつける


「私は、山南さんは亡くなったと聞かされておりましたのにねぇ。皆して、この伊東をたばかっていた、と?。この伊東は、仮にも新選組の参謀ですよ?その私に黙って謀を……。納得のいく説明をしてもらえるんでしょうね!」
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