薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾四
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日一日と暑さが増していく…

暑さで体調を崩す患者が
増えないか
心配していた、ある日の事



「今の…俺は
どうやら看れないようです…」
「…気にしてるの…?」

「……いいえ……どうにも
渇いてるみたいで…
どうも…収まりを知らない…」

「最近の縁君は
我慢のし過ぎだからね?

……僕が欲しくなってる…?」
「余り誘わないでくれますかね
……眩暈がしてきました」

「ははっ、我慢するからだよ
まったく素直じゃないなぁ……ま、"取り敢えず今日は"松本先生に診てもらうけど…此処でも構わないでしょ、縁君?」

「……ええ、大丈夫ですよ
…救護室の方が医療器具は
揃ってますから…ね」




最近の総司は日に日に
顔色が悪くなっていた…

そして次第には咳も目立ち
近藤さんにも心配されて
松本先生の診察を再び
受ける事になっていた

何時、病気がバレても
可笑しくないのに
まだ、言わないを貫くか…



そこは意地っ張りな
子供みたいだ…



そんな診察記録を
見返していた時のこと…


―カシャャャ…

「!…、歳さん?」

「他の奴らは居ねぇのか…」

「みんな往診に回ってますよ
……歳さんの顔色も余り
良くありませんね?」


向かいの椅子に座った歳さんはどうしようもなさそうに
溜め息を吐いていた

…どうやら…早いかな


「うるせぇよ…テメェの
言えた義理か?」

「仕方ありませんよ…
一応は医者でも
医師が付いてますし」

「縁や総司は気に入られちまってるからな…精々悪化させないこと、だ」


やはり、分かる者には
分かるんだよ…総司…

こんなに真剣な
表情をしてくれて貴方を
心配してるんだ…


「……、総司ですね…」

「…何時から…なんてのは
愚問だな、総司が
変な咳をしていた時から
アレは良くない病気だってのは
分かっていたんだろ?」

「ええ…だから何時も
徹夜通しで新薬を試みました
……上手くいきませんが」


木机の奥に数種の薬草や
調剤などを見遣った…

そんな様子に、やはり…と
歳さんは目を伏せいる
が、数秒して
再びその目が合い…


「……は、どうせ総司の事だ
口止めされてたんだろ
お前は"患者"には甘いからな」

「…参りましたよ、この性格」
「テメェの事だろうが…
もうちっと、厳しくなりな…」

「……ですね、鬼の副長の
歳さんには適いませんよ」

「ふ…縁が言うなよ」

「すみません…」


小さな笑いが場の空気を包んだ
歳さんは相変わらずだ…

聞きたければ
問い出せばいいものの…
身内の事は身内で…とも
どうせ、そう言い返してくるのだろう、彼は言わない


意外な所で歳さんは
鬼に成りきれていないようだ…


「……、そういや縁
最近オメェ自身の調子は
どうなんだ…?」

「…調子…ですか…」


「別動隊は休止、しかし
救護隊にて
大坂でのこと以来
あんまり聞かねえからな……」

「……、……」


なるほど、歳さんは "躯"の事を
心配してくれてるのか…

飢える躯には歳さんにも
世話を掛けたから
あまり迷惑をかけないよう
心掛けていたから…


「大丈夫です……最近は
松本先生に看てもらってますし
…それに、総司も
今が心配な時期ですから…」

「……そうか……縁には
世話を懸けるな…」


少し考える素振りをした後
歳さんは俺の頭を撫でた…


「…いえ………」


それが不思議と落ち着いて
歳さんを見据えていたことを
俺は知らなかった…

きっと、最近は人肌に触れず
ぼんやりとした
気持ちだったからだろう

きっと……



―ドクン……ドクンッ
「?!………っ!」

「縁…?」


――…何故、この躯は
場を弁えない…

何故、苦しくなる

何故、どうして


覚えた味が甘いからか…
彼らの優しさに
付け入っているからなのか…


痛みが走る…

心臓が締め上げられる

苦しい、喉が焼けたように
渇いてくる…


ドックンッッ……ガタッ!
「ぅ"ぐァ"ッッ!?――……は……すみ…ませ、ん……歳、さん…っ…俺…はっ…せ、席を…はず…っ」
「?!!」

―パシッ


此処まで痛くて
苦しくて、
息が出来なくなったのは
何年振りだろうか…

突然過ぎて
これは駄目だと思い
救護室の奥部屋で
何とか済ませようと思ったが
俺の腕には、
歳さんの手が掴まれていた…


「?!ぐッ…ァ"ッ……っ"!?」
「馬鹿野郎……やっぱ
無理矢理抱え込みやがって……言葉に言えばその餓えが表に出るくらいに苦しいなら…そんなに欲しいならくれてやる…っ」

「?!…がっ…ァ"あ"ッ!!」
―ドスッッ!!
「…っ"!!」


この時、俺はよく
覚えてない…
ただ…僅かな理性を端目に
微かでも人目をはばかりたくて
歳さんを襖の向こう、影に
追いやったのか


自ら、身を差し出した
歳さんの優しさに
付け込んで
手荒く押し倒したのか…



しかし、この湧き上がる
慾に抗う理性は無かった…
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