薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾参
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 慶応二年 七月十五日


 京を大混乱に陥れた【禁門の変】の後
幕府は長州藩を朝敵とし各藩に長州征伐の命を出した。


 第二次長州征伐…


 しかし、長州征伐に反対する藩も
少なからず居た、それは薩摩藩等による調停だ。



「会津副藩主として、どうか雪浪殿率いる救護隊に…」

「…申し訳ありませんが今の救護隊は万全ではありません…
別働隊も然り…西郷殿にもそう伝えていただけますか…」

「そこをどうかっ…何も救護隊の者々を削く訳ではございません!護衛の補充ならば薩摩でも事足ります故、雪浪殿さえ御同行願えれば…」
「いえ…そう言う訳では…」

「―――チッ…いい加減にしてくれねえか…救護隊は
新選組<ウチ>の組織の者達だ、別働隊も会津副藩主としても
自己権限は全て縁にある、その会津副藩主は否と
返答をしたんだぞ……テメェん所の藩主はその意味
理解出来ねえのか?それともテメェ自身が分かってねえのか!」
「っ……。……」

「ト、トシ…」

「副長、落ち着いて下さいよ。そんなに怒ったら血圧が
急激に上がって血液が血管壁に余計な圧力を掛けて
負担が懸かりますよ、ストレスで血管壁を傷付けては駄目です」

「ハァ?!……。…あ"ー………ったく、相変わらず
他人事みてえに済ませてくれやがって
…一体、誰の問題話だと思ってやがんだ」


 各、藩の問題が我が新選組の組織内、救護隊
及び、別働隊にも召集がかかったらしいが
別働隊及び救護隊は暫く動かすな…と

 まだ万全ではない源伎達を気にかけてくれてる
副長直々のお達しがある。使いの薩摩藩の方は
そんな鬼の副長の対面に思いっ切りたじろいでいた。



―――ダッダッダッッ!!
「おい! 縁は居るか!?」

「はぁ……新八、今は…」

「すんませんって!でも今は事を急するんですよ!」
「雪浪君は居るかね!」

「松本先生まで…?」

「松本先生?一体どうなされたので?」


そんな時に、この人払いをしていた筈の部屋に
新八と松本先生が駆け込んできた、とても焦った様子で。


「一大事なのだよ!今直ぐ大坂城に同行してくれるか!」

「…大坂城…?」


 何故、大坂城なのだと思った…だけど
ふと思い当たる点はある…今は慶応二年 七月十五日


 しかし、大事となる日は二十日は……――。
…助けたところで、新選組が 変わるのだろうか。








* * * * *

***


 同月 十六日


――ザザザザッ…ブルルッ…


「松本殿!大坂城に到着致しました!どうぞお急ぎ下され!」

「分かっておる!」

「新八、起きて下さい」
――ペシペシ…
「うぉ…っと…、悪い」


 一日掛けてたどり着いた大坂城、馬車での揺られ道中
同行を買って出てくれた…隣で眠りこけている
新八の頬をペシペシ叩いて起こして馬車から降り


「お待ちしておりました!貴方様が
お噂に名高い救護隊の医師、雪浪殿ですね!」

「…将軍の容態は?」

「私共では詳しくはっ…どうかお急ぎ下されっ、只今
孝明天皇が典薬療の医師、高階経由殿と
福井登殿の派遣医殿達や江戸城から、天璋院や
和宮の侍医にも駆けつけて頂きましたが…殿の病状は一向に…っ」


 馬車を出て門前では侍医が待っていたらしく
詳しく聞いてもこの慌てよう、病状が分からないまま
俺達は押し流されるよう急ぎ城中に案内された。



―――…徳川将軍、家茂公は二十日に亡くなっている
今は十六日……史実通りならば残された時間は、四日。


 本当に助けてほしいのなら呼ぶのが遅すぎる
もう危篤状態の筈だ…助けられる訳が無い。







* * * * *


――カシャャャ…
「失礼致しますっ。会津藩副藩主兼
新選組 救護隊医師、雪浪縁殿が到着致しました…っ」


 案内されたのは最上階、天守だが途中、新八とは別れた
召還された御典医や指名医以外は上に足を赴けてはならないらしい。


『!!…』

「貴方が…今、京の町でも噂に名高い
…新選組 救護隊の医師、雪浪殿で……お若いですな」

「……、家茂公の容態は?」

「大変宜しくない状態です…」


 出迎えに答えてくれたのは高階経由という者
並びに、江戸城から急派された大膳亮弘玄院
多紀養春院、遠田澄庵、高島祐庵
浅田宗伯らが俺を見るなり驚いたような視線を向けてきた

 が、その視線を敢えて気にせず天守の奥
簾の向こうに目を向けてみれば家茂公が苦しそうに眠っていた。


「雪浪君、そのまま殿の御前に」
「……わかりました」


 先に家茂公の側に居た松本先生に呼ばれ、後から急いで簾を潜った。


「―――……其方…が…良順や容保が何時も話していた……雪浪 縁…か」

「……御初お目見え掛かります…家茂公―――。
…会津藩副藩主兼、新選組 救護隊、雪浪 縁…
御典医 松本良順殿から将軍の病を聞き、馳せ参じた次第…」

「気に…する事は、ない…そう…畏まらないで、くれ…」
「お気遣い……傷み入りまする」





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