薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾参
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「おら、邪魔だって言ってんだろ!」


 こういった浪士を取り締まるのも新選組の仕事だ
一達が居ない今やらなければならないのは、俺のみ

(…なんだ……何処からか、ざわつく…)

 だが、こんな時に身体が鈍る、否、突然と渇く
そんな考えの中、考えが遅れて浪士が
路地で遊んでいた子供を蹴飛ばそうとする


「……!」


 遅れながらも、走り込めば止められる筈だ……そんな時


「止めなさいよ、見っともない!」
「?!!」

 心臓が締め上げられた気がした
一人の女の子…千鶴ちゃんと同じくらいの歳の娘だろうか
子供を庇うように立ちはだかっていた

 何故、見る度に…苦しい、そんな場合では無い。


「あぁん!?何だ、てめぇは!たかが女が
俺たち勤王の志士に意見するってぇのか!?」


 調子に乗ったかのように目を向いて、女の子に
掴み掛かろうと手を伸ばそうとする姿にハッとし


「チッ……!」


 舌打ちを知らずのうちに零し、一度千鶴ちゃんに動かないよう
待っていてもらおうと振り返ってみれば
………唖然、姿は無く彼女の姿は移動していた…。


「なんだ、お前は。その女の知り合いか?」

「いいえ、知り合いではありません」
「知り合いじゃねぇんならすっこんでろ!」


 千鶴ちゃんに怒鳴りつけた
浪士に対して一気に殺意が湧いた

これならば、苦しみなど……だが町中での殺戮沙汰は抑える。
注意が彼女達に向いてるならば俺は何時でも
出れるよう背後に回った、念の為に羽織りも脱ぐ。


「……あなた達がお国の為に尽くそうという高い志をお持ちなら
何故、か弱い女子供に暴力を振るおうとするのですか
町人を守ってこその侍でしょう!」
「なんだと……!?」

「そうだそうだ!いいぞ、兄ちゃん!」

「志士気取りの不逞浪士め!京から、さっさと出て行け!」


 それまで事態を静観していた町人達が、一つ一つ力強く出す
千鶴ちゃんの言葉に同意するかのように彼女へ歓声を送るが。


――カシャ…
「くそっ……!馬鹿にしやがって!」


 それに誘爆したかのように激怒し、勢いのまま刀を抜いた
―――…刀を抜いた以上、不逞浪士の分際で少し度が過ぎたな。


「……」


 あれ…あの娘…ずっと、此方を見据えてる


―ドガッッ!!
「……安心しろ、峰打ちだ」
「…おふざけが目に余ります…って、あ…ダブルで入った…」

「…だぶ、る…?」
「独り言です」

「縁さん!斎藤さん!」


 浪士が刀を振り上げたタイミングで俺は
浪士の頭に蹴り、一は峰打ちとほぼ同時に入った
はて一体どちらが痛かっただろうか、敵は呻きながら崩れ落ちた。


「ぐぅ、うぐっ……!き、貴様、ら……」

「……そいつを屯所に連れて行け。長州の残党かも知れん」
「はいっ」


 一の命令を受けた隊士が浪士を
縄で縛り始めるのを見下ろしつつ、溜息。


「無茶をするな。何故、我らを呼ばない」

「……危なかったですね…先に
一人で行かず、ちゃんと俺も呼んで下さいよ」

「す、すいません。つい、とっさに……」


 ふと、一は冷たい目で千鶴ちゃんを
見下ろしながら叱るような口調で言い俺は残念そうに告げ


「そうよ、無茶なことしちゃって!
あんなの私一人でも大丈夫だったのに」

「え……、あの……?」


 もう一人…彼女も無茶をしていると俺は思えるのだが
無茶を無茶に重ねて叱られてしまった
千鶴ちゃんはどうしたらいいか立つ瀬なく戸惑っている。

「すいません、私、ご心配かけて……」

 千鶴ちゃんが頭をぺこりと下げると
彼女はハッと思い出したように目を瞬く。


「あっ、でも……。私、貴女に助けてもらったのよね
まだ、お礼を言ってなかったわ、ありがとう
貴女、勇気があるのね。浪士相手に立ち向かうなんて普通出来ないわ」

「い…いえ、そんな……。私は、縁さんや斎藤さん…
他の隊士さんに助けてもらっただけですから」

「あはは、謙遜なんてしなくていいわよ、これも
何かの縁だと思うし女の子同士、仲良くしましょうね」
「え……?」


 思わずと身を強張らせた千鶴ちゃんに一は静かな声で告げる


「……見る者が見れば分かることだ。動揺するな」

「ええと……」
「あら、もしかして内緒だったの?……まずかったかしら?」

「まあ……、その……」

「……、……」


 内緒であり内緒でもない、そんな複雑な心境
助けを求めるかのような千鶴ちゃんの視線に今の俺は
告げるべき言葉が見つからず毎度お馴染み、彼女の頭を撫でるに至った

 そして、目の前の女の子は何故か
嬉しそうに事情を察して言葉を続けた。


「あ、ところで、まだお名前を伺ってなかったわね
これも何かの縁ですもの。教えてくれる?」

「あっ、えっと、こちらの方は――」


 まず一を紹介しようとする
千鶴ちゃんに言葉遮るように彼女は言う。




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