薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾参
3ページ/6ページ







 慶応二年 九月

「お、おいおいおい!縁っ、大変だ、どういうこった!?」
「…新八……?」

「あれ、永倉さん。どうしたんです?」

「巡察の最中、不逞浪士にでも出くわしたか」


 慌てたように俺に詰め寄ってきたのは
新八だった、それも焦りに焦った形相で詰め寄り


「それどころじゃねえ!何時だよ縁!
何時、家茂公が亡くなっちまったんだ!?」

「―――えっ!?」


 この場が一瞬にて静まり返った…それはそうだな
新八は、俺が家茂公の治療に当たって居たことを知っている
…だが家茂公が何時亡くなったのかは幕府にての機密事項

 新八が言うまでは公にはされてなかった…
やはり将軍が亡くなるという影響は民に混乱を来すというから。


「すみません…幕府機密事項で話せません」

「お…おい…そりゃ、本当か?何もこんな時に……長州征伐は
どうなっちまうんだ、次の将軍はもう決まってるのか?」

「その辺りは、よく分からねぇけどよ」
「大将無しで戦争するってのは流石にな……。兵隊の士気も上がらねぇだろ」

「…なんかよ、いやぁな予感がするんだよな、この前も
長州藩を攻めきれないで帰ってきちまったからな。
今度もそうならなきゃいいんだけどよ」

「…でも、相手は長州一藩なんですから大丈夫…ですよね…?」
「………、!…ぁ…いえ……どうなんでしょう…かね…」


 ふとして、尋ねる先の人物が俺だったらしく
不安そうに見上げる千鶴ちゃんには小さく苦笑を零した
こんな時に、俺は人を安心させてあげられる
言葉を知らない……俺は助けられなかったから…。





―――…その後に、幕府は大軍を率いて長州へと攻め込んだ。

が、第二次長州征伐は幕府軍の
大敗北という衝撃的な結果で幕を閉じた。

 原因は戦費の大きな負担、各藩から集められた
兵士達の士気は思うように上がらなかった…。

 そんな時に追い討ちを懸けるかのような将軍家茂の訃報
藩は動揺は戦線離脱する藩さえ現れ…結果は大敗


 揺らぐことのなかった幕府という
柱に亀裂が走り始めた瞬間だった…。








* * * * *

***


 この日、俺は千鶴ちゃんと一とで巡察に出ていた
…最近、救護室は部下に任せてる機会が多い
その原因は、やはり将軍警護期や第二次長州期によって


「……暑くなってきましたね」

「はい…」

「……そうだな」


 だが、もう一つ理由がある
千鶴ちゃんも薄々感づいているだろうが
穏やかな態度の端々には微かながらに殺気が滲んでる


 禁門の変 以降、長州藩は朝敵として京を追われる身となった
…残党がまだ、この京に潜伏していないとも
限らないので俺は別働隊として駆り出されている…

 と、言うよりは気配に敏い者が必要だった…
と言うところだろうか、お陰で最近は
医者としての仕事が回らず源伎や谷沢に任せっぱなし

 別働隊行動は控えているが裏情報収集として
忍の出でもある吾妻と霧賀埼を頼りとして任せっぱなしだ。


―――…まだまだ気も抜けない…忙しくなりそうだ…。


「取り敢えず、あそこの店から回ってみる、お前は縁と一緒に
店の前で待ってろ。中に居ても手持ち無沙汰だろう」

「はい」

「…縁は見張りを頼む…万が一だけ備えてくれ」
「了解」


 千鶴ちゃんの頷きと俺の了承を聞くや一は
数人の隊士を連れ近くにある呉服屋へと入っていく


(新選組だ。店を改めさせてもらう)
(へ、へえっ)


 一が率いる三番隊が戻って来るまでの間は
千鶴ちゃんとのんびり待っていようと思った。


「……、何だか二人でいるの…久し振りですね…」

「ええ…最近は、中々千鶴ちゃんと共に居られる時間が少なかった
共に居られなかった間は変わった事はありませんでしたか?」

「…い、いえっ、変わったことなどは……新選組の皆さん
気を使ってくれますし救護隊の皆さんも
とても仲良くして下さってますから、全然っ!」

「……辛いと……感じてませんか…?」
「!……いえ、大丈夫です…何だかんだと、縁さんも居てくれますし」

「そうですか……良かった」


 無理をした笑顔に見えた…でも、救護隊を
話してくれた時の千鶴ちゃんの笑顔は楽しそうだった
…幸いにも歳が近いのは救護隊のメンバーに数人

 第二次長州征伐の後だ、たまに殺伐を浮かばせる彼らより
何時でも気兼ねなく話せる救護隊メンバーの方がマシなのかもな。


「……、縁さんは…」

「?……」
「…あの……」

「―――…、俺は…大丈夫」

「…ぁ……」


 それに、山南さんや彼女の父親の事も…まだまだ未解決


「おいおいおい、道を開けやがれ!勤王の志士様がお通りだ!」


 俺達の間だけ静かなる空気が漂ってた最中、通りの向こうから
明らかに柄の悪い浪士が周りの人を威嚇しながら歩いてくる

 あの手の類は不逞浪士と何ら変わりない、勤王の志士と言っても
強盗や殺人に手を染めている者ばかりは数が知れている。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ