〜尊いし眸〜

□十六章
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「……佐助さんに
そんな辛い思いさせてるのは…
僕の所為だったんですね……」

「……、君の生きる気持ちを
殺がしてしまってるのも…
…俺達"人間"…だよ」

「!、違います……逆です…
佐助さん達は僕に生きてる事を
教えてくれてます…」

「?……」

「…僕は……この世界で
死んでない…生きている…」


捨てても構わない命じゃない
僕が迷えば探しに
来てくれる人達が居る


「…何言ってんのさ…
当たり前だよ…聖ちゃんは
生きてくれてるじゃない…」


怪我をしてしまったら
同じ様に苦しんで
くれてしまう人達が居る…

だからこの命
軽々しく考えてはいけない…


「うん……でも…
捨てたいって事もあった
…もう終わりにしたいって
考えた事も沢山あった

でもそれが駄目だって……
悲しんでくれたり、僕の為に
怒ってくれる人が居たから…
今の僕があるんだと思う…

佐助さんもそれを
教えてくれた…」


「…!……」


佐助さんの手を両の手で
包み込みながら
僕は額を付けた…


「痛みや苦しみ、悲しみ
それは生きてるから……だから
僕はもっとみんなの元で
逃げないで…生きて…知りたい

…それが、鋪乃に
対する僕の報い…何時までも
彷徨う僕を探してくれる…

…みんなへの感謝……」


「……………………………
全く……適わねぇ…」


そう言って、再び顔を
見上げた時の佐助さんの表情は
先程とは違って
霧が晴れたように明るかった…


「佐助さ…」
「まぁーった!……。
うん…聖ちゃんは聞く方
俺様は言う方!」

「?……」


「…もう大丈夫…俺様は
これからも聖ちゃんに
…『小鳥の君』に会いに行く

小鳥がこの世界でまだ
分からない事を、この"影"が
教えにきてやるさ……」
「!!」


前髪を柔らかく
掻き上げてくれる佐助さんと
視線が絡み合った…

僕の両の目を見て彼は
笑ってくれた…

人として、忍として


「あ…だけど、一人で何処かに
行ったり、無茶したりしないでよね?もう俺様、気が気じゃないんだからさ」

「…はいっ」

「後、今更だけど名前に
"さん"を付けるの止めてね
他人行儀っぽさが
全然抜けてくれないから!」

「は…はいっ!」

「うん、良い子」


「……、…………」


何だか何時もの佐助が
戻って来たような気分だった…

彼は忍だけど…お館様や
幸村さんという、大切な主を
…表でも影でも
支えて行く人なんだから…


「……聖ちゃん…なんか
手が冷えてきてんね…?
俺様が温めてあげよーか?」


何て考えてたら
目の前が真っ暗に…

言わずと知れた…


「?!、さ、佐助さっ」
「聖ちゃ〜ん、『さん』は?」


「あ……、佐…助…」

「そうそう、……ちょっと身体
冷やしちゃったみたいだね」

「だ…大丈…夫」


二度三度と人の温もりが
くすぐったい…自分が
こんなにも人と触れ合うことが
許されてもいいものなのか
少し心配だった…

何時かこんな日が
消えてしまうのではないかと…


「んー…じゃあ手で我慢
……安心してね…」


そんな僕を見越したのだろうか
手を握る強さ…
安心できる力が籠もった…


「……はい」


今更ながらに佐助は忍…
闇や影に紛れようとも
当たり前なのに…

彼の言葉には感情があり
優しさもあるから…


―ビュンッッ!
「うっわ……危な…」

「チッ、狙いは宜しかったのに向こうの反射神経の方が一枚上手でしたか」
「………(コク」

「綱元、何時の間にか
風魔と意気投合してんな〜…」

突然飛んできたのは手裏剣
元凶地は
綱元さんと小太郎

しかも狙ってたかのように
全て佐助に
向けられたものだったらしい
…本人からこっそり
耳打ちをされて
苦笑が知らず零れ


「鬼庭の旦那が
怒ってるみたいだから
今日は此処でお預けだね〜
旦那方もそろそろ
戻ってくる頃かな……」

「……佐助」

「?…ん?」


「……、ありがとう…」

「…、……」


みんなの元に戻る際
佐助にはお礼を告げた…

深い意味は無い…
ただ、心配してくれて
ありがとう


これからも変わりなく
居てくれてありがとう…と…



僕はそう告げたかったのかも
知れない…

だけど彼は分かってると
言いた気に
やんわり笑んでくれた…




…貴方はそれで良いんだよ…

"一度死んでる者"に
悲しみを浮かべる必要は無い…

忍だからって
心を殺さなくていいんだ…



だって、僕は何度
間違えても
やり直しは利くから…

大丈夫…




死なないから……




死んでも
…死なせてくれないから…
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