〜尊いし眸〜

□十伍章
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* * *

ぁ……また…暫く会えなくなってしまうの?…蒼空………僕は…


…暫く、姿を保てないから…
だが、聖の中で眠るだけ
もう汝を傷付けさせはしない……双竜が…人が…我に願い、新たに誓った……護られるだけではなく、もっと強く…聖を護りたいのだと……だから我は安心していられる…



…そっ…か……僕にはまだ…うん……約束を破ってはいけない……よね。…ありがとう…

蒼空……一時の間…ゆっくり、おやすみ…



……嗚呼……









* * * * *

「――………、…ぁ……」
「!…聖っ!?」


まず、目を開いたら蝋燭で照らされていた薄暗く知らない部屋

そして目が覚めた僕を驚いて
覗き込んだのは小十郎さん


「アレだけの失血した昏睡状態で、意識が…ッ…意識が戻ったのか……。聖っ…もっと…ちゃんと顔を見せてくれ……聖…っ」
「…こ……じゅ……う…」


壊れ物を扱うかのように小十郎さんにしては珍しく哀しみと安堵を含ませた表情で…僕をゆっくりと起こすなり、気遣うよう柔らかに抱きしめてくれて

僕は彼の胸の内に収まっていた


「……、ちゃんと…居るな…
彷徨わず……戻ってきたな…」
「…はい……小十郎…さん…僕……ちゃんと……戻って……来ました…よ…ちゃんと、言い付け…まも…って…」

「良い子だ……聖…本当に…」
「小、十郎…さ…」


強く…だが柔らかに抱き締めてくれる小十郎さんはやはり
温かい、安心出来る…

だけど、身体がとても重く
怠く…言葉も
しっかり回らなくて

…動かない事が煩わしい…


「そんな顔するな……安心しろ
俺には伝わってる……。
政宗様を呼んでこよう……
早くあの御方も
安心させてやってくれ」

「…は…い……」


小十郎さんは僕をあやすように頭を何度か撫でると、静かに
また布団へ寝かせてくれる


「……、小田原の事は安心しろ
城を落としたのは真田と武田
北条氏政は城を武田側に譲るのが当然だが、北条氏としての
城としては機能させてる。
"伊達は表では"北条と同盟を交わした。…伝説の忍は表裏無く自らの意志で此方に就くと…まあ、状況はこんなもんだが、お前は何も気に悩むな…」

「!……は、い…」


そう言って…小十郎さんは
僕を安心させるように頭を撫で


「大丈夫だ…直ぐ戻る」
「…ぁ……」


政宗様を呼びに早足で部屋を出て言ってしまった…
…小十郎さんが居なくなって

突然虚無感が頭を支配する…


―シュッ…タッ…
「聖ちゃん…」
「!……佐、助…さ…ん…」

「………………」


まだ人肌恋しくて…何時もならすぐ近くで感じられる筈の鋪乃が感じられないからだろうか…

より一層に感じる
寂しいとも感情が芽生えた時
佐助さんが何処からともなく
姿を現してくれた


「……、………」

「…まだ……俺様にもそんな
"安心した表情"で見てくれるんだね……怖くないの…?」
「……誰も…居なくて……怖…かっ…た…」


僕の言葉に佐助さんは少し驚いた表情で目を見開いた…

だが次には息を付いて何処か安心したように頭を撫でてくれる


「君を刺してしまった人間だよ…触れられるの嫌でしょ…?」
「…手……離れちゃ……嫌」


様子がおかしかった…佐助さんが今にも消えて…もう

二度と僕の目の前には現れてくれなさそうな…辛そうな表情をしていたから…触れてくれた彼の手を離せなかった


「こんなに…辛い思いをしてるのに…どうして、君は……っ」


「辛く……な…い……でも……大切…な…ひと、た…ち……が……佐助さん…が、つらそう…なの、は…いや…」

「!………ごめん…聖ちゃん」
「…佐…助……さん…」

「……ありがと…ね…君の声を
聞いたら、俺様
何だか安心出来ちゃったよ…
――………独眼竜が戻ってくる
あの、御仁にも早く
安心させてあげなよ…」
―シュッ…
「……………」


佐助さんは居なくなった…この部屋から消える直前に…
僕を安心させるよう
微笑み掛けくれて…


また…ちゃんと
会ってくれるだろうか……。

少し不安だった



―…ダッタッタッ…カンッ!!
「聖ッッ!!」
「?!…ま…さ……む、ね……っ…さま…ッ…」


そんな時、息を切らした
政宗様がこの部屋に駆け込んで来た……彼と目が合った時

また違った感情が生まれて…


「!…聖ッ……ちゃんと……戻って…」

「……政宗…様……そう…りゅう…の…元…ぼく…の…かえ…る…場所……」
「嗚呼…双竜の元だ……何度も
言わせんな…っ……何度、も…居なくなって…くれんなよ
……My little bird…」
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