〜尊いし眸〜

□十伍章
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蒼空にも小太郎にも悪いが此処は僕も譲れない……氏政お爺さんとも約束したんだから…僕が政宗様達を止めるんだ


「本当に何かあったらで良い…だから蒼空に任せるから…」

『……、聖の願いの侭…』


此方に首を振り向いた蒼空の瞳の色は不安に染まっていたが、僕はこの子を信頼してる…


「ありがと…小太郎をお願い」

『…承知』
「!……、………」


蒼空の頸筋を撫でてやりながら僕は立ち上がり小田原城下を見下ろす。崩れかけの栄光門…左右、支える柱の片方に向かって飛び降りた


―タッッ、ヒュゥゥゥ……ヒュタッ…
(……身体が軽い…)


風が撫でる……あの時の感覚だ

優しくて…僕を見守ってくれる蒼空の温かさを感じる……

僕の覚悟に応えてくれる
強き神髄を感じる…

―シュタッッ…
「聖ちゃんっ!無事か?!」
「小鳥の君、怪我は…っ怪我はしてないか!!」

「佐助さん、かすがさん…」
「!…その腕は…」

「ぁ…これは、掠っただけで」

「っ…風魔にやられたのか……すまねぇ…もっと早くに
オレ様が…顔色も悪い、もしかしてその時毒も盛られた可能性が…ちゃんと解毒してもらったの?!」
「忍に付けられたら傷に毒は付き物なのだぞ!小鳥の君っ」

「だ…大丈夫です、二人共…
解毒はちゃんと…
怪我も何ともありません」

「…だが……」
「…聖ちゃん…?…」


僕の両肩を掴み、佐助さんは
珍しく焦り顔にとても心配してたんだと分からせてくれる程
心配の眼差しを離さず
向けてくれて、かすがさんも
本当に心配そうに傷を付けられた腕の手を握ってくれて……
僕はそんな二人に微笑んだ


「…佐助さん、かすがさん
…らしくないですよ」

「何を言っているんだっ…風の悪魔と言われた伝説の忍相手に、こ…小鳥の君が……聖が連れ去られたなど……っ」

「!……かすが…さん…」
「かすがの言う通りだ…俺様だって凄い心配した…真田の旦那も…竜の旦那達も……だから、みんな来たんだ…聖ちゃんを探して…」


かすがさんはふと悲しそうな
表情に変わって初めて
僕の名を呼んでくれた気がした
…佐助さんも様子は変わらない…だけどふと肩から僕の手を
握ってくれた彼は表情を変えずで、その温かさに目を伏せた


「……かすがさん…佐助さん…ありがとう…ございます…。
…僕、帰ります…ちゃんと…僕を見てくれるみんなの元に……離れても…彷徨う事は…ないから…」


僕を知ってくれるみんなが僕を
呼んでくれるならば…
けして彷徨ったりはしない……


「…聖……」
「……、聖ちゃんは良い子だね
……双竜に手懐けられた訳でも無さそうなのに…………」
「……佐助さん…?」

「――…旦那達は門を突破して
聖ちゃんの"友達"を追ったよ、急ごう…君が降りてるなんて…皆、気付いていないからマズい」

「!、はい…」


佐助さんの様子がおかしかったのは疑問だった…だけど今は
彼に引かれる侭に
政宗様の元に向かった…


……早く…行かないと…

辿り着かないと…








―…ヒュゥゥ…シュッ…タッ
「……、聖ちゃん止まって」
「!……、…?」

「………凝りないねぇ……ま、金で雇われてるだけの
アンタが何考えてるか知んないけどさ…俺様もこれ以上
この子を傷付けられるの、黙ってらんないんだけど?」
「!……」

―シュ…タッ……
「……、………」
「?!……小太郎…」

佐助さんとかすがさんとで共に塀を辿って、政宗様達の元に
急いでいた所、突然の目の前に現れた小太郎が道を遮った
佐助さんとかすがさんの目付きも先程とは打って変わって鋭い

だけど、小太郎も小太郎で相も変わらず無口だけど怪我もまだ塞がりきっていない…蒼空はどうしたのだろう…無理を押し切って此処に来たのだろうか…


―ジャキッ…
「例え、あんたが伝説の忍であろうが何だろうが聖ちゃんは絶対渡さねぇ…かすが、聖ちゃんは任せるぜ」
「分かっている……抜かるな」

「……、…………」
―ヒュッ…チャキ…


戦うの?…佐助さんも小太郎も
これは意味の無い戦いなのに

……僕が…"居なければ起こらなかった戦"だったんだ


嗚呼…そうか
僕が居なければ…無かった


―…シュッ……
「でやァッッ!!」
「……、………!!」


――…聖…汝は干渉せし者……傍観せし者ともなろう……だが…反せし想いの身の感…情……な…ぜ…?……聖は……―
「…!?…、……」


どうして蒼空までそんな
悲しい鳴き声で囁くの…





……大丈夫だよ……僕は…



もう……大丈夫だから…。
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