〜尊いし眸〜

□十泗章
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もう、この世界に来て何日も
何月も過ごせばそれが改め…嫌程知らされる事になる


「…っ……はァッ!!」
―キンッキンッキンッ!!ブンッ!!キンッ!

「…!…………」


苦悩と痛みの攻防、交える刃…
現実と非現実は違う

今目の前に起こる事が現実


戦国乱世の世で生きる者達に
迷いなど無いのならば…


―ザッッ……サアァァァァァ…

「!?…黒い霧……忍術…ッ」
…逃げて…早くこの場から…人の気配…沢山……聖…!


黒雲の如く、辺りは闇の霧に
包まれ気配が散乱する…僕も見えない回りに行動判断が鈍り蒼空の焦る声も聞こえたが


「………………」
―ザッ…ガキィィンッ!!……ザクッッ

「ッ!?……、っ!…ぅ」
―…ザッ…


蒼空の言葉も虚しく…身体の痺れが全体に回り風魔の素早い攻撃に武器は掴む力もなく簡単に弾き飛ばされた

反動に立つ力もなく崩れ落ちる


―ダッタッタッッ…
「shitッ!?何だこの霧は…っ聖!何処だ!此処に居るのか!」
――シュタッッ…
「独眼竜っ、気をつけろ、これは忍術だ…無闇に動けば惑わされる、術者を突き止めねぇと!」
「何…っ」

「くっ…佐助…この忍術…」
「……嗚呼…コレは」

「チッ…何処ぞの忍の手……。…!…政宗様…聖の気配が」
「っ…何処に居んだ、聖ッ!!」





「!…まさ…む…ね…さ…ま」


みんなの声が聞こえ声を出したかった…しかし声帯も痺れて
満足に呼べない
只の毒ではないのか…


「………………」
―ヒョイッ…
「?!……ぁ、…ッ」

「……………」


そんな最中、突然風魔に抱き上げられて戸惑ったが
彼は相変わらずの無言

虚しく僕は抵抗も出来ない…


(っ…みんなに知らせる何か)

…我が施しから眷族に知らせる…聖…今は抗っては駄目…

(!……ごめん…蒼空…)

精神世界での対話…
身体が痺れてる今は蒼空に任せるしかないか……風魔に聞かれてない分は幸いなのか…そうでないのか

景色が何時の間にか風のように変わる…今も…何とも言えない





* * *

――サアァァァァァ……ガキィィン!!
「!…何かに当たったか…!」
「…霧が晴れた……くっ、この忍達は全部囮…」

「……!…これは聖の…」
「…Big bird……蒼空から授かった…槍……、…」
――ザッ……グッ…

「…また…俺は……っ」


槍を抜き取り、持ち手を強く
握り、唇を噛み締めながら
俺は悔やんだ…

また、間に合わず…
辛い目に合わせちまったのか…

血の跡が…辺りには武田と上杉の忍が使う跳び道具とはまた違った手裏剣が散乱して

……聖は戦ったのか…
山から泣いて降りてきたガキを

……俺の民を護る為に…



―パタパタッ……キュルル…
「!?…コイツは…」

「…蒼空の…little bird!?
………黒い……忍…」
―キュルルル…

「…黒い忍…」
「…旦那…その鳥が何を言ってんのか分かんのか…?」

唐突に聖の槍先に止まり
現れたのは、蒼空に似た
小さなlittle bird…

槍から伝って、このbirdが
俺に何が言いたいか分かった…

伝えようとしてるのが分かった


「…聖が…ガキを庇って
怪我を…した……だと…ッ…
……忍の名……風…魔…」


「!!……伝説の忍が動いてるとはね……相手が悪い…確か噂では…そいつ、今は傭兵で北条の爺さんとこで雇われてなかったっけ…」

「嗚呼、北条氏政が雇っているのは伝説の忍……厄介な奴を」


……、…伝説がなんだ…
北条がなんだ…


どいつもこいつも……


あの爺さん……いや黒い忍……

竜の断りもなく
逆鱗に触れてくれたぜ…

双竜の大切な宝に
傷まで付けてくれるなんてな…


「……伝説?…北条?……フッ
………HAッ…は、ハハハっ!」


「…旦那……」
「……………」


政宗様は唐突に…
壊れたような笑いを零された…

それはとても政宗様らしくない

…憎しみと怒りを浮かべた
表情を胸の内へ
静かに秘めておられて…


「…分かってんな…小十郎…」
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