薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□九
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 新選組門前、平助と伊東参謀の話が長引いてしまった後
上手いことあしらって、今は場所を移し救護室
調合薬をも取り揃える部屋に閉じ籠もっていた。

「…………」

――――その原因は、山南さんの様子で事が急した。







* * *

『……山南さん、縁です……往診に来ました』

『嗚呼…縁君……どうぞ、入って構いません…』


 伊東参謀の言動により今朝の様子の山南さん
妙に心配になり、彼を訪れた…だが、入った瞬間
山南さんの部屋は以前とは比べ物にならない程に変わっていた


『!…それは』

『凄いでしょう……今…私はアレの薬の研究を進めているんです
―――…これ以上、今の縁君の手を煩わせない為にも』

『!!…山南さん…何言って…っ……俺はっ、貴方を…!』


 彼の部屋は、その人と同様に変わっていた…実験室みたいに
フラスコのような物に入る赤い液体……それは以前
山南さんが落としていったアレと同じものだと直ぐに悟えた



―ソッ…
『縁君…もう、これ以上無理をしなくとも良いのですよ
…貴方はこれから新選組の救護隊と言う隊
これからはより率いて行かねばならない責務がある…

…私などに構ってる暇は、もうありません…今後
新選組を助ける為……もし私に何かあっても…縁君なら大丈夫です
…君が躊躇う必要は無い…君は、それを
誰よりも人やアレを理解出来る人なのですからね…』

『…山南…さん………一体、何を…言ってるんですか…』


 ふと、俺の頭を撫でる山南さんの笑顔は
今朝に見た時よりも何故だか穏やかだったが
その笑顔は妙に俺を不安にさせた


『…直ぐに分かると思います……。さあ…今は戻りなさい
縁君には、まだやるべき仕事が沢山残ってます』

『……わか、り…ました…』


 何故、あの時…俺は彼を引き止めなかったのだろう
何故…躯の何処かで強く否定していたアレから

『今すぐ止め下さい…』

 その一言すら彼に言えなかったのだろうか……。





 何故…いつも、俺は……―――











* * * * *


***


――…キキッ……ギギキッッ!!

「…!……、……」

―ギギギッ…ギッ…………

「―――…くそ、また自我無しか……マウス実験ではこれが限度。
使えない…こんなのに頼れる訳がないっ……
何故こんな訳の分からないモノが存在するんだ…っ
っ……どうして…治せる病を俺は治してやれないんだ……」


 マウス実験で実はまだ、あの赤い薬を未だに改良し続けてた
もしも、があればと…藁にも縋る思いで……。


 だが、上手くいかない…今、目の前に居るマウスは
俺から見ても自我なんて無い…鼠と言う欠片さえなく
毛並みは白く、目は赤……皮肉にも…俺と同じだなんて。


「……絶対に治す…そう、約束した…だけど…俺に何が…」


 この時代に来て始めて見た…おそらく
新選組の隊士が実験の対象か…同じ末路

 駄目だ、これでは……幾ら医療器が無くても
最後は自分の力で何とかしないといけない
仮にも医者の手を持つ己が禁忌を侵してなんとする。



――タッタッタッ…
「縁さん、千鶴です…入っても大丈夫ですか?」

「?!…千鶴ちゃん、ですか……どうぞ、大丈夫ですよ」


 突然の千鶴ちゃんの訪問には驚き
実験したマウスは隠した後に引き戸を開けた。


「縁さん…すみません…忙しいのに突然……」

「構いません…忙しさには慣れてます……どうしたんです?」

「あの…中で話しても良いですか?…こんな事を相談出来るの…
お医者さんでもある、縁さんくらいだと思って…」


 出入り口で立ち止まる千鶴ちゃんの表情を見て、悟った
多分、俺と同じ考えで居て山南さん絡みの件で相談に来たのだろう…。


「?……取り敢えず…中に…。……さあ、……………」


 一度、縁側に出て他に人の気配が無いか
確認した後に千鶴ちゃんを中に招いた…。


「!…凄い…ですね、縁さん…これ全部、縁さんが調合したお薬なんですか?」

「はい…隊士達が体調を崩した際、その人達に併せてね
薬の材料も変わってきますから…後々
体調の事も考え、多くに振り分けて常備してるんですよ」

「……縁さん…やっぱり凄いです…私も見習わないと」


 部屋に入っては誰もが、そう思ってしまうのか
此処は調剤室に近く棚には様々に並べられてる薬品に
千鶴ちゃんは驚きを隠せないで居て
…そして、意を決したような眼差しで俺を見据えた…。





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