〜尊いし眸〜

□十参章
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 小十郎さんがそう言うと政宗様は急に僕を米俵抱きに担いだ。


「?!……ぁ…あの…まさ」
「My little bird 小十郎、出掛ける準備だ
俺は聖と準備してくるからお前は馬を頼むぜ?」
「承知」

「んじゃ、俺様は俺様で行動させてもらうかね〜
聖ちゃん、また後でね…」
――ヒュンッ…

「ぁ……」


 僕らの様子に佐助さんは困ったような
そんな笑みを浮かべて影霧のように消えた。


「どうせ俺らの近くを隠れて追って来るだろ、奴に用があるなら呼べば現れる
取り敢えず聖、俺達は出掛ける準備だ――little birdは少し武装した方が良い」

「え?…は、はい」


 政宗様の意外な返答には飽けに取られたが佐助さんは
どうやらまだ奥州に居ると言う事が分かり次いでとして
彼は護衛としても着いて来てくれるのだろうか…

 少し佐助さん自身の仕えてる幸村さんやお館様が気になった

 だけど、政宗様に担がれた侭、出掛ける準備だと
途中、女中さんにバトンタッチされたので
考える暇なく僕は武装の準備に取り掛かった。







* * *

「準備は出来たようだな?」

「はい、出来ました」


 準備をし終え、政宗様と共に門前へ行けば小十郎さんが居て。


――ブルルッ…
「…覚えててくれたんだ……ありがとう、僕は大丈夫」

――ヒヒンッ、ブルルッ…
「……うん…本当に君達は優しいんだね…」


 政宗様と小十郎さんが乗る愛馬達が待っていて
僕に気が付くと馬達は体調は大丈夫なのかと聞いてきてくれた
暫く会えなくて、心配してくれたりと…沢山

 小十郎さんが手綱を持っているにも関わらず
擦り寄って来てくれたので、額合わせに優しく撫でた


「コイツらも随分と聖に懐いたもんだな…そこまで誰かに擦り寄るなんて見た事がねぇぜ」

「そうなんだ……嬉しい…」
――ブルルルッッ


 政宗様達の愛馬は僕に『もう友達』と伊達軍馬らしく
…力強く…僕の頬にまで擦り寄ってそう言ってくれる

 "友達"、その言葉だけで…。


「聖、俺の馬と戯れるのも構わねえが、さっさと出ねえとお遊びの前に日が暮れちまうぜ?」
「あ、…す、すみません」


 政宗様の言葉にハッとして導くように前に乗れと示しているが。


「聖、上げてやるから鞍を掴んどけよ」

「あ、はい……」
「Hahaッ 全く可愛いもんだな、鞍を掴むより俺の手を掴め」


 やはり高さ的に乗れず小十郎さんに呆れたように
笑われながらも、結局、彼に抱き上げられ
政宗様には腕を引かれて乗馬出来た


「……政宗様、小十郎さん、ありがとうございます」


 なんやかんやで小十郎さんにも政宗様にも
世話を懸けてしまっているな…乗馬くらいは出来るようにしないと。


「別に構わねぇよ、逆に小十郎は役得だよな?」

「…まぁ……こんな事くらい大した事ではありませぬぞ、政宗様
………寧ろ、政宗様の馬は特殊で普通の鐙<アブミ>を掛けて無い
故に聖が足を滑らせて落馬されては困りものですがな」


 二人なりの気遣いなのか…小十郎さんの言葉も合わせて、背後から
頭を撫でてくれる政宗様にも嬉しくて自然と笑みを浮かべた。


「俺が聖を落とす訳ねぇだろ?…取り敢えず出るか
奥州の領地がどんなもんか早く見てみたいだろ?」
「!…はい」

「…はしゃぐのも構わねえが、俺や政宗様から
勝手に離れたりするなよ、この奥州でも、何時
何処で忍んで居る奴がいるか分からねえからな…」


 僕の様子を心配そうに、見据える小十郎さんの忠告には
心に留め頷いた……そうだ…少なくとも
知らない他国よりは奥州が安全かもしれないが

 何時、誰がこの領地に踏み行ってるか分からない

 佐助さんやかすがさんみたいな忍なら簡単に入り込めるから。


「気をつけます…」

「小十郎、そんな顔すんなよ…折角の俺達との初外出に
聖を不安に煽ってどうする、もっと楽しく行こうぜ?」


 後ろから僕の肩を抱いて引き寄せてくれて、見上げてみれば
政宗様は大丈夫だと笑んでくれていた…そんな政宗様を見て
知らず張っていた肩が落ち僕も笑みを返せば彼は馬を駈けた。






―――ブルルッ!
「………、摺上…原?」

「a correct answer<正解>…此処を知ってんのか?」

「いえ…今、この子から教えてもらいました
…政宗様が護る領地の一つ……更に奥、東北
民をも背負い…この全てを…護ってるんですね…」


 政宗様の馬を撫でながら返答してみれば
彼は納得して頷く馬上の腕組みの侭、遠く見据え


「……どうだ?此処から見える奥州の眺めは…」





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