薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□八
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* * *

――カチャ…カチャン……
「……ふぅ…これでもう大丈夫、皆さん…お疲れ様でした」


「「「お疲れ様でした…」」」


 手術は無事成功した…今は目の前に居る子は
後から来た母親と共に居て、もう大丈夫だ
…本当に……心配して泣きつくその母の姿に

 俺の中で何故か分からないが『寂しさ』が生まれてた
だが、それよりもまだ予断は許されない状況

――――…それでも心拍数、脈、呼吸は共に安定しているな。



「暫くは看護が必要です、まだ油断してはいけません」

「はい、長…」

「……長は本当に凄いですね…あんなに素早く
的確な医術…私は見たことがありません…」

「…俺もです…家系状、腑分けとかならよくやりましたが…
あんなやり方もあるんすね……直止血縫合に頭部固定…」


 それぞれが思うは、どうやら後悔が見える…
あの時の躊躇が悔やみきれないのだろうか

 言葉はやりきったように聞こえても良いのが、そう聞こえない


「……誰しも最初から、何でも出来る訳では有りませんよ、皆
…本当に、良く俺の言葉を聞いて下さいました……それだけでも感謝してます」

「「「………………」」」


 それを聞いて再び皆は俯いた……まさか俺が自ら 躯を使って血を使い、それに伴って
傷付けた事を悔やんでいるのだろうか…


――――否……考え過ぎだな…異端な行為に情など生まれない。


「……術後経過の記録は吾妻に任せましょう
源伎は引き続き来院者回り、谷沢も共に……。
俺は隊内の往診に回りますが大丈夫ですね…?」

「…了解致しました…」

「「…はい…」」


 俺も久々の深い手術で少し疲れたのかも知れない
だから…今は少し外の空気を吸って、休もうか。













* * *


「もう昼過ぎか……眩しい」


 救護室から出て八木邸の門前まで散歩した
この時期、風当たりは冷たいものの日差しはまだ暖かった


――ザッザッ…
「……、…」

「…縁君?どうしたんだ?こんな所で……手術…終わったの?」

「!……平助?…伊東参謀も」

「どうしたのかしら?浮かない顔をしているけれど
…縁君の事ですから、御子の手術は成功したでしょう?」


 が、ふと空を仰いでた時、知らぬ間に
平助と伊東参謀が俺の前に居た

 平助は心配してるにしろ伊東参謀は
相変わらずの笑みを向けながらも、その言葉遣い
また、相変わらず…何だか苦手意識が更に定着してしまうな。


「ご心配なく…手術は成功です、二人は
…こんな所で一体、如何致しましたか…?」


 伺い気味に尋ねてみれば伊東参謀は変わらず笑みを浮かべる。


「平助君と今後の新選組をどう立ち上げるか
話をしていたら随分と弾んでしまったのよ」

「そうそう、何たって新選組は尊皇攘夷を掲げてる組織だしさ
伊東先生の話、聞いてたら入り込んじゃったんだよ」


 二人の話を聞いてハッとした…今後に立ち上げる新選組
…それは伊東参謀が隊長となる"御陵衛士"という存在に。


「――でさ…。…縁君?」


 そして、此処で大きな犠牲者を出してしまうことになる。


「ちょっと?…縁君てば…?」

「……、………」


―――…平助が……仲間が…居なくなってしまうのか…?
俺は、この事件を知ってながら何もしないで…居て良いのか…。


「縁君ってば!!」
「?!……あ、嗚呼…平助…どうか、しましたか?」


―――…本当に、俺は一体……何のために。





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