薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□八
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――ガチャッ…
「!……、…まだ出血が酷いな、ガーゼ!谷沢は開創器!」
「「はい!」」


 急ぎ、切り崩れた組織を縫合し何とか内部も縫合した
感染は心配だが、その辺りは源伎達がちゃんと
やってくれるので大丈夫だ…信頼してるから…


「吾妻は急ぎ頼んでいた点滴と言う機材
すぐ準備して下さい! 輸血の準備をします!」
「は、はいっ!」


 点滴用の針と、そのチューブから道具まで何とか準備はしていたが
…その輸血用の血液事態の準備は無理だった…だが、輸血の血を使う


 我が身の銀血……迷っている場合ではない。



「長、準備は出来ました!…ですが輸血用の血液は…」


「ありがとう、吾妻。……いえ、悠乍…採血の仕方は分かりますね?」
「?!…はい…人体から血液を採取する事ですよね…
以前にもご指導下さった、これで採取を……」


「そう…輸血は健康者の血液を患者の静脈に注入する事
だがこの時代では血液型が分からない…
その上で、もし誤れば拒絶反応を起こし最悪死にます
ですが俺にはその型が無い血液の部類…」


 俺の血は作られた物…常人のように血液型なんてモノ…存在しない
だけど、この子は調べられないだけで型は必ず存在する

 だから、不用意に他者の血など入れられる筈が無い


「……長、お言葉ですが…それは長の血を使ってまで
この子に輸血をする、と、言う事ですか……?」

「そうです、型が分からない以上は不用意に輸血は出来ない
ですが俺の血は、人の血では無く、人に作られた血です」


 それを聞いた源伎は顔を顰めた
彼だけに止まらず谷沢、吾妻までも。


「…それは…長の身体を傷付けてまで…この子を救え…と?」

「何を考えてるんすか…俺ら…長の事情は知ってます、でも
その上でまた長の身体に傷を作らなきゃならないんですか…っ?」

「今は時間が無い…失い過ぎた今のこの子には
多くても200cc以上…輸血は必要不可欠なんです」

「「………」」


 そうは言ってみた、だが彼らは浮かなく
何故暗い顔をしているのだろう…
俺に傷が付いても何の問題も無いのに…。



「……、吾妻…採血をお願い出来ますね?」
――…シュルル…


「!……っ…そんな…傷だらけで…更に長は、傷を作られてしまうのですか…」

「採血など些細事です」
「!……」


 何時も両腕に巻いている片方の包帯を解いて晒し出した
この腕には吾妻や源伎、谷沢も珍しく絶句し躊躇していた


……まぁ、採血痕ならまだしも、この様ならば…それもそうか
医者が自分の身体に傷を付けているなんて可笑しな話しだ

 やはり、幾ら人体実験の話しを理解したとて
全てが納得出来る訳じゃないか、彼らは未来を担う

 立派な医者だから…こんなのを見たら当然の反応なのだろう


―――…だが……本当に…時間が無いんだ…今のこの子には……だから。



―ガチャッ、…プツ…
「お、長…っ」

「出来ないのならば俺が自分でやります…直ぐ
終わりますから貴方達は引き続きその子の手当てを…」


 流石に腕を切って血を採取するには空気感染の恐れがあるので
出来ない、採血器を使って俺は自らの血を逆血させる事にした
…そうすれば空気に触れずに血を採取出来る



「っ…!!…待って下さい長、私がやります…
長が言ってる事は確かに正しい判断で
自分を返り見ず人の命を助けようとしている
……医者の立場ならば当たり前の事を……ですが、私は」


 俺自身の事情を知ってるが故に後悔するかのように怖ず怖ずと
採血の手を進める吾妻には軽く笑んで彼の頭を撫でた


「優しい子なのですね。……助かりますよ…俺の身で
こんな小さな助けられる命は助けたいので……感謝します」

「長……貴方という人は…」


 少しばかり彼から肩の力が抜けたように見えた
…そう思った後にも採血を終えたのを見て俺は早々に輸血を開始した




……大丈夫…

この血は普通じゃない…


異常なる銀の血



皮肉にも…仕方ないんだ…





これで助かるんだから…――――。






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