薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□八
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 まるで、山南さんの優しさがすごく
表面的なものみたいに見えてしまってる千鶴ちゃん
まぁ……俺も山南さんの様子を今と昔を
こうも比べれば嫌でもわかってしまうのだが

 でも…医務室で山南さんと対話すれば、涼しい
何変わらぬ笑顔で居てくれるんだが…それは
もはや、それも今は無理矢理取り繕っているのか


「……近藤さんもなんだってあんなのが気に入ったんですかね」


 総司と歳さんは二人して不機嫌そうに眉を寄せてる
面白いところで内心は一緒の考えか、変に安堵した。


「……んなこと俺が知るかよどうせ、口先三寸で丸め込まれたんだろ」
「じゃあ土方さんが返品してきてくださいよ。
新選組にこんなの要りませんー、って」

「cooling off 制度が有れば良かったんですがねぇ…」

『…??……』


 総司の物言いに深い溜め息を吐く歳さんに続けて俺も
総司に弁上してみれば現代用語が分からなかった様子

 それにも深い溜め息を吐かれてしまった。


「縁は訳の分からない事を言うな……近藤さんも許可する訳もねえだろ。
すっかり、伊東に心酔してるみてえだしな、伊東と一緒に
加入した連中も、そんな扱いされちゃ黙ってねえだろ」


 確かに…伊東参謀は自分が居た道場の門下生達を
何人も引き連れて新選組にやってきた、その際にも
救護室に来た時の彼らの愛想は実に伊東参謀によって

 皆で仲良くしていこう…そんな感じだった

 否…何かを取り巻く裏が有るか…
歳さんの返答にも総司は口を尖らせている。


「役に立たない人だなあ! 無茶を通すのが鬼副長の仕事でしょうに」
「だったら総司、てめえが副長やれ。
んで、伊東派の連中を屯所から追い出せ」

「あはは。嫌ですよそんな面倒臭いの、それだったら縁君の方が効果覿面だし」
「……………」


 そう言ってけらけらと明るく笑いながら話しを
此方に振り掛けるが、俺も伊東参謀の相手は嫌なので
眉を顰めた侭勢いよく首を横に振ると総司は、溜め息を吐いた

「斎藤さんも、伊東さんが苦手なんですか?」

 ずっと沈黙していたことが不思議だったのか
千鶴ちゃんは一に伊東参謀の意見を尋ねていた。


「……様々な考えを持つ者が所属してこそ、組織は広がりを見せるものだ
しかし無理な多様化を進めれば、内部から瓦解を始める可能性もある」

「…………」


 何だそれ…一も結局は、余り伊東参謀長の
今回のこの入隊には賛成していない派、か…。


―――…伊東甲子太郎、現…参謀長の入隊のお陰で
新選組は色々と混雑してきそうだな…内部瓦解

 それだけは絶対に嫌だ…。仲間との繋がりも…
たかが彼の入隊で何もかも崩れ無くすなど…―――。



――ダッタッタッッ!!
「お話の所へ、失礼!」

「?、慌ててどうした」


 伊東参謀の話しはこれで一応は、締めた、が
突然と広間にやってきたのは大層に焦っている源伎と吾妻
二人は雪崩れ込むように俺の元に駆け寄ってきた。


「長!急患です!馬と子供の接触事故です!蹄に
頭を打ち付けられ出血が酷くっ…このままでは…っ」
「!?…馬の蹄…頭部……不味いな。―――……副長」


 吾妻の切羽詰まった様子や掌に付いている血
…子供の出血限度を考えれば今が一番危ない
そう思って、副長に振り返って見れば。



「……はぁ…何もたもたしてんだ! 俺の許可なんぞ必要ねえだろ
お前は新選組救護隊の隊長だ、構わずさっさと行け!」

「!―――…はい……では、失礼」


 副長は、さも当然かのように淡い
笑みを浮かべて俺達を見送ってくれた……。



―――……新選組の救護隊で俺の、居場所
本当に彼らの仲間で居て良いのだろうか

 新たに出来た部下と共に走りながら、ふと、そう思い巡った。













* * *


――ダッタッタッタッ…

「あっ…長!良かったっ」
「谷沢!子供は?!」


「っ……非常に危ない状態です、出血多量に、額から
頭蓋にかけての切り傷は深く骨も皹が入っている可能性が高い…っ」

「失礼…変わります―――…脳震盪…外傷性ショック…考えてる暇は無い
緊急オペを開始します…皆、順序は理解出来てますね…?」
「「「承知してますっ」」」


 皆、真剣な眼差しで頷いた……だって、目の前に居るこの子
まだ五、六歳の幼子…しかも、朝に俺の所に水疱瘡で受診してきた子だ

 それに…この子に触れた時、心臓の鼓動
頑張って生きようと必死に動いていたではないか



 生きたいんだ……この子は普通の幼子は
俺を見たら怖がる筈が…この子は…――


『ありがとうお医者さん!ぼく、頑張って治すから!』


 そう言ってくれた子供、また
医者としての希望を持たせてくれた子だ…。




「―――…では、今から緊急オペを開始します
急ぎますよ…準備して下さい、これは時間との勝負」
「はいっ!」
「「了解です!」」


 だから命懸け繋ぎ留める、治す…絶対に…。


「坊や……頑張って下さい…」


 今は俺が何の為に存在するか…
そんなの今は関係無い、俺は身近な人を
傷付ける存在かも知れないけど……それでも…。





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