〜尊いし眸〜

□十壱章
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「ゲホッ…ゴホッ!…っ…は…っ」

――…彼の身体、病魔に蝕まれしもの
…しかし……その決意は、硬くな軌跡を辿るとする…――



 無意識の内、傍に寄り添い咳きが治まるまで
彼の背をさする事しか今の僕にはしてあげられない…

 その最中に頭の中に語るのは蒼空の声

 それも自分にしか聞こえない…。


 半兵衛さんは、こんな状況でも、何時でも覚悟は出来てるんだ。


「………、分からない」

「…………?」


『分からない』…とは蒼空の言葉の意図では無く、目の前の
半兵衛さんの考えに拠るもの。辛い病で何時消えるか分からない

 命の灯火…それを無理に削ってでも
豊臣の未来の為に尽くす彼の考え…理解し難い。


「半兵衛さんは聡いです……僕は確かにこの時代の人間じゃない
…だから、貴方も…豊臣の未来も……どうなるか知っている…」

「知って、いる……のか…」

「はい……だけど…」

「…?……」


 否…出来る訳がない…それが人間だ…
僕の時代まで繋いだ歴史の結果…個々の意志があるから


 すれ違う…奪われる…裏切られる。


 善、悪がある……



 世に正しい事なんて何一つ、有りはしないんだ。


「それでも半兵衛さんは…進むんですね、その身体を
引き摺ってでも…何をしてでも。どうなるか…分かってても…」

「!……そう…だよ…。…君は…尊く…そして……慈悲深い『小鳥の君』
僕は、君を奪い…大切なモノさえ奪う人間になるだろうに
なのに…それでも、こうして…君はまだ囀ってくれるのだね…」
「……、……」

「…どうして……そんなことが出来るんだい…?
…聖君は奪われ続け…裏切られ……失った筈なのに…」


 分かってる……分かってるけど…。


「…この時代に来る前までは…僕は言葉を介す人間が嫌いだった…
全てが無意味で、偽って…物でしかない…
また奪われるかも知れない、そんな恐怖から目を逸らした…。
でも、やっぱり…この時代の連れてこられた意味で…僕は」

「…、意味…か……」


 やはり…僕は、消えてほしくない…此方に来てから
生きる意味を見つけられたんだ…また見つけなければいけないんだ

 未来を作ってくれた、彼らのような人間を…


 それを教えてくれようとしてくれる
蒼空の為に生きて、干渉して…理解する為に…。


――ザザッ…ザッ
「っ……聖!こんな所に…!」

「!……綱元さ」
「?!、聖…その足……貴様がやったのか…!!」

「……おや…少数でも精鋭部隊だったのだが
…やはり、伊達軍相手にあの小勢だけでは…無理か。
―――…迎えが来てしまったみたいだよ…これは僕も相当不利だ」


 ふとして、森深い茂みから現れたのは
少し息切れをした綱元さんだった……見るからには
軽い返り血が薄暗いながらにも伺えたが

 それ以外にも僕の様子を見て、彼の取り巻く
雰囲気は一気に、蒼電の殺気へと変わっている。






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