薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□七,壱
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「あの……斎藤さんは最初から戦うつもりは無かったんですよね」


 ふと、戸惑いながらも言葉を慎重に選びながら
口を開いた千鶴ちゃんに俺も習って、一を見た


「……居合いで脅せば容易に退くかと思ったが
奴には俺の剣筋が読めていたようだな」
「え……?」

「薩摩には厄介な輩が居るようだ。
……話の通じる点は救いかもしれんが」

「俺としては…彼、薩摩の人間でも無いように見えますがね
……雇われている…と言うのも有り得ますから」

「…その考え…否定出来んな」


 呟きに近い互いの言葉は会話として成り立ったが
それ以降に天霧と言う人物の会話に触れる事はなく

 後の烝の帰りを待つべく、そのまま
蛤御門の警備に一達はついていたが、この間
俺は駆け回る医療隊や救護隊の指事など
御門近くの救護陣営を経したため往復したが、千鶴ちゃんも
蘭方医として手伝うと言ってくれたので終始一緒だった


 まあ、彼女は呟き様に薩摩藩と会津藩の様子が悪くて
居辛いと言っていたから、その理由には
思わず肩の力が抜かされるかのように、苦笑が零れた。










* * *


「……殆どが多量出血か…斬られ所が悪かった人達ばかり…」

「…戦ですからね…病ではなく殆どが
深い刀傷か鉄砲…命を無駄にするなんて…愚かしい」

「吾妻、それでも私達は医を目指す者、戦に敵味方も関係無い
…目の前に苦しむ者が居たら治してあげるのが我ら医者の役目…」


 源伎が答えた、彼の名は吾妻…彼も救護隊の一人
谷沢と同じくして医者家系の生まれ
彼はどうにも戦が嫌いと言っていた

 出来る限りの事をしたい、戦を起こした者達は嫌いだが
敵味方関係なく助けたい…だから確かめたい。
と、初顔合わせ当時そう言っていた…。


「源伎…そうでしたね、雪浪殿に教えられたばかりだった。
感情に振り回されてはいけませんね…」
「負傷者二名入ります!!雪浪殿!一名が深手です!!」

「!……分かりました!吾妻、此方をお願いします!
源伎はもう一人の負傷者に回って!俺は重傷者に回る!」
「「!、了解です!」」

「…千鶴ちゃん…っ助手をまたお願い出来ますか?
俺の癖でまだ異国語で言う医療具に戸惑う方が多いので…」

「はい!私で手伝える事でしたら何でも言ってください!。縁さんの言葉なら一通り覚えてますし!」


 各に命令した後、軽傷者の治療にあたっていた
千鶴ちゃんを呼んだ…此処で助手を手伝ってくれる医師達は
腕は大丈夫なのだが俺が現代者故に現代用語で言う
医療具に戸惑われて訂正する間が何回か惜しまれていた

 が、新選組で医者をやっている時も現代用語が
そう簡単に抜ける筈ない言葉にしていた為
度々に手伝ってくれていた千鶴ちゃんはどうやら
覚えてくれてるようで、彼女の言葉が今は頼もしい。


「……これは、酷いな、刀傷に砲撃を食らったのか……まだ息は
あるが意識レベル…0…脈拍も…急がないとな…千鶴ちゃ…」
「?!!……っ」

「……、千鶴ちゃん無理そうだったら言ってください…」


 が、救護陣営に流れてきた重傷者は最早
見られた物じゃなかった…痛ましいでは生易しすぎる程
酷い砲撃の爆風火傷が上半身の肉体が焼け焦げ刀傷は
深くにまで到達してる、僅かに骨まで見えてしまってた…。


「ごっ…ごめんなさい、縁さんっ!私は大丈夫です、急ぎ指示を出してください!」

「…無理をする必要はありませんよ。気分が悪くなったら
すぐに言って下さいね。……ガーゼ、ありますか?」
「はいっ…」


 千鶴ちゃんには気持ち的にも無理してほしくはないが…


 今は目の前のことにも、集中するしかない…




 今は、目の前が戦…



 色んな事が、また忘れられない
記憶へと刻まれる…。




――シュッ…タタッ
「縁さん!自分も手伝います」

「烝!……有り難いのですが、其方も忙しいのでは…」

「自分の任務は終わりました、今暫くは警戒が解けないでしょうが多分この戦はもう終わってます…。それに、斎藤組長が此方の手伝いに回ってやれと言い付けを承りましたので…」

「…そうでしたか…烝、本当に
助かりますよ…ありがとうございます…」

「はい」


 あの天霧九寿と名乗った人物が……前に
池田屋で出会った者とは違う意味で同じ匂いがしたから



 何時か、この手とも刃を交える日が…―――。














禁門の変 蛤御門編 完
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