薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□七,壱
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――ザッ…

 目の前で殺し合いでも始まりそうだった
勢いの中、薩摩藩士の列を割った…長身で長髪の赤茶髪
…眼の色が碧眼の男性が姿を見せた…その一瞬


「!……」
「……?…」


 目が合った…勘違いでは無く、向こうから無意識なモノか
とても驚きを露わにしていたが…それも一瞬…。


「貴様が相手になるか!」


 先程の会津藩士が怒りを隠しきれない侭
怒鳴り声を上げ、その人に斬りかかろうとしたが
一が俺の横を過ぎ双方の間に踏み入った。


「―――やめておけ。あんたとそいつじゃあ、腕が違い過ぎる」


 一の言葉が正解だ…この人物もその場に居る時点で
薩摩側の人間だろうが…何か引っ掛かる

 薩摩の人間とは何かが違う感覚……。


「池田屋では迷惑をかけましたな、確か……藤堂と言う
名の青年にお相手頂きましたが怪我の治りが良くないのであれば
加減が出来ずにすまなかったと伝えて下さい」

「……。貴方が平助に…ご安心を…僭越ながら身の職分上
俺が彼らを診ている身なので大事至らず
元気ですよ…寧ろそんな言葉を本人が聞いたら
さぞ蒸し返して怒ることでしょうが」

「……貴方が医師か……ならば、問題なく安心でしょうな。
先の戦より負傷した長州、会津、薩摩の藩士を手当てを
して頂いているとも我が藩のものから聞きました……
敵味方無く…見間違いではなければ救護隊を率いるのは貴方ですね?」

「察しの通り…」


 この者は人を見るな…頷けば「そうですか…」と
何故か、安心したように呟かれ、彼の背後に居る
薩摩藩士らには驚きの声が上がり会津藩士からも上げられた


 まあ…どうせ、医者のイメージは彼らにとっては年長者
白ヒゲお爺さんが王道だろうから
今更、俺自身が不思議に思う事はないが


 イメージに負けたのは少し不服


「御託はいい…新選組<ウチ>の心配など端から無用だ…池田屋で
藤堂を倒したのがあんたなら合点が行く。……大方
薩摩藩の密偵としてあの夜も長州勢の動きを探っていたのだろう」


 バッサリと切り離した一の鋭い口調彼との会話が途切れた以上
俺も一が問うた返答を待ってみたが
この者が返したのは何も否定せずの沈黙


「………ぁ」


 それを見た一は不意に居合いの構え…彼我の距離を詰め


――ヒュッ…ジャキッ!!

「っ!?」

「………ふぅ…」


 見えたら見えたで奇跡だが俺には残像しか見えなかった。

 千鶴ちゃんの驚いた声には心配したが
突然の一の行動の所為だろうから大丈夫だとは思う…。

 目にも止まらぬ神速の居合いとも言えるその白刃の
切っ先は目の前の敵の眉間に一寸の振れ無く
定め止められていたが

 切っ先を向けられている本人は身動き一つすらしていなかった。




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