〜尊いし眸〜

□十章
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―――――…キュッ!!………キュゥ…キュゥ…ッ
「……っ……はぁ…はぁ…っ……あんな所に…」


 森の奥へと走って数分、辿り着いたのは木々が開けた崖近く
そしてその近くの断崖に生え立つ木には今
僕の服の隙間に居座る貂よりは何割か小さい子貂の姿


――キュゥ…キュッ…

「…待ってて、今すぐ助けるから」


 あのまま落ちれば崖の下、高さが把握出来ない
それ以上ならば…いくら動物でも落ちれば死ぬ…

 駄目だ…もう失うのは蒼空の時だけでも懲り懲りだ。


 僕が助けられる命は…僕が助けなければ…。


「……君は此処で…」
――キュゥッ!!

「!……そっか、分かった…一緒に行こう。…大切な君の子だものね」


 親貂でもあるこの子には待っていてもらおうと思ったが
やはり、そこは、どんな世界であろうと親の性…
一緒に行くと言ってくれて、この子を自分の胸に抱いた侭

 固まる子貂の元へと足を歩めた。


――ガサッ…ガサ…ガサ…


…キッ!……キゥ、キュゥ………キュッ、キュッ!!

「安心して…此方においで…ほら、お母さんも君を待っている」

 脅える子貂に手を差し伸べた、親貂をみて顔を輝かせる
それに太い枝木だったから僕が乗っても折れはしない枝木だった

「っ……」

 だが足場が悪い分バランスを崩せば
下は闇…集中を途切れさせてはいけない
…助ける事だけを集中しなければ駄目だ…。


――…キゥ……キュゥ…ッ…!!
「っと…良い子……、大丈夫、…僕がちゃんと…!!?」
――ザザッッ!!


 何とか僕の手を伝って子貂を保護する事が出来た
親の貂と共に子貂は僕の服の内へと納まり後は再び戻るだけ


――ビュンッ!ギュルルル!!
「?!…ッ」


 だったのだが何か…鋭い物が足に絡み付いた
足に絡んだ鋭い物…関節部に付く刃…知っている。



――ガサ……ザサッッ!!
「!?、ぅぁ…っ!!」


 関節剣―――…だが、そんな名が出てきたのも束の間
唯でさえ足場の悪い木の上…考える間も無く
両手すら、木やどこかにも掴む場所がない…


 足を下に強く引っ張られるように…
抗う事も出来ず崖下へと引きずり落ちた。






* * *

――…ガサガサガサッッ…ヒュッ、カシャン………トスッ


「…すまないね、乱暴に『小鳥の君』を
地に引きずり落としたりして……怪我はしなかったかい?」
「っ……ぅ、?!!」


―――…が、長く落ちる感覚も何処かを強く打ち付ける感覚も無い
…僕にあったのは何かに受け止められたような柔らかな感覚。


「?……嗚呼、すまない…足首に我をさせてしまったようだ…」


 そして、僕に振ってきたのは優しい声音…視界に映るは
白く柔らかな印象の髪、紫の仮面、その奥に映る鋭い瞳。






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