薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜
□七
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「土方さ」
「…、………」
「……歳三さん」
「お前にそう言われると他人行儀気味で気味が悪い」
「………、なら…歳さん」
「そんなもん…だな…だが、これは他の野郎共が
居ない時だけにしてくれ…総司なんかに聞かれた
暁には何を言われるか溜まったもんじゃねえ」
「……………」
腕を手当てしてくれる手際は宜しいのですが
歳さんは我儘+注文が多いようだ
…まぁ、顔を赤くしながら不機嫌そうに
ぼやく歳さんを見れただけでも許しましょう。
「……良し、こんなもんだろ」
「ありがとうございます、助かりましたよ」
「これぐらいで礼なんぞ必要ねえよ…羽織りは
……いや、着物も、どの道切れてるから隠せねえな…」
「…歳さんが大丈夫と言ってくれれば、大丈夫でしょう」
無理矢理過ぎるか、歳さんの困った笑みに
俺も知らず知らず笑みが零れたが……。
「…大丈夫と言いや…お前、身体は大丈夫なのか?
……何時もの"発作"とか…あん時、対峙していた様子は…」
「嗚呼…確かに、風間と対峙していた時は
少し危なかった…でも、今は何ともありません」
「……我慢はするなよ?」
「…はい…何かあれば……ちゃんと隠さずに言います…」
やはり顔に出ていたか…心配そうに、ふと
前髪を掻き上げるよう頭を撫でてきた歳さんには
視線を合わせて、なるべく笑みを向けた
彼の心配が…手が温かかったから
偽りでも作られたものでもない
自然な笑みが知らず浮かべられた。
「……それで良い…それじゃ急ぐぞ
日が落ちてきた…流石に遅いと
他の奴らを心配させちまうしな」
「ですね」
再び立ち上がり皆の後を追う為、早足で
急いだ…もう空は青から茜色に染まり始めている。
*―*―*
「暗くなってきましたね…」
「…嗚呼…不味いな、流石に夜闇になってからじゃ
あいつらを探すのが…難しくなっちまう」
「………、!…歳さん」
「…あ?……」
もう山の麓辺りに入った時…目先には
浅葱色の羽織りが見えた、よくよく
見ればそれは探していた人物達…。
「!!、縁さんっ!土方さん…!」
探していた者達も見つかり安堵した最中、千鶴ちゃん
本当に心配していたような声で俺達の名を呼んでいた
…泣いてしまったのか、手の甲で顔を拭っている姿を見た
心配をかけた事が申し訳なかったので
無意識に左腕は後ろに隠した。
「ご無事でしたか、副長、雪浪君。……怪我も無いようで何よりです」
島田さんの言葉を聞いて俺の怪我は何とか隠し通せた
千鶴ちゃんも同調して何度も頷いている様には
本当に心配していたんだな、と彼女に近付いて右手で頭を撫でた。
。