薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□七
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「邪魔が入ったな…仕方無い…またの機会に
お前に会いに行ってやろう…どうやら、本当に
"浪神鬼"を知らんとするなど…なるものか……」


 そう言うと風間は背を向け何食わぬ顔で薩摩藩士を横切った。


「……申し訳ありませんでした、貴方は新選組の副長
土方殿とお見受け致す…此度の無礼、お許し頂きたい」

「……、あいつは誰なんだ、本当に薩摩の人間か?」
「はい…あの方は風間千景と言う方…どういう理由で
彼が薩摩藩に居るかは私も存じないのですが
薩摩に味方して頂いてるのは確かなのです」

「味方してる割にアレは命令を無視した独断行動が目立っていねえか?」

「それは…確かなのですが…彼は我々よりも立場が上…何とも言えないのです」

「…風間…千景……」


 副長の質問攻めに怖じ気づく薩摩藩士を
刀を収めてから遠目で見ながらも風間が
消え去った方向に俺は暫くぼ〜っとしかけた。


「…貴方も大丈夫ですか?…腕に怪我をなされたのか?」
「!?…い、いえ…お気になさらず…何ともないですよ」
「……?」


 不意に薩摩藩士に尋ねられ慌てて怪我をした腕を後ろに隠した
未だ血は止まっていない、だが、こんな異様な血
一般の人間などに見せられる筈もない…。


「…取り敢えず俺らは天王山に向かってるんだ
余計な邪魔が入ったから当初の目的より遅れちまったが
急いでるんで、此処で失礼させてもらうぜ…」

「…あ、嗚呼…此方こそ失礼した…」

「行くぞ、縁…」
「…はい」


 何に戸惑ったかは知れないが副長は俺の右手を
引っ張り出して早々にこの場を離れる事になった。








*―*―*

「この辺なら、人は居ねえな……ほら、腕を出せ」

「…………」


 此処はもう天王山近くの山…今は
茂みの近くで副長に無理矢理座らせられていた。


「……馬鹿が、やっぱり深いじゃねえか…我慢しやがって」

「…馬鹿は酷いですね、我慢なんてしてません」
「…ったく……布と包帯は持っているか…?」

「…常備してます…」


 そう言うと副長は一度溜め息を吐いた
後に、貸せ…と言ったので背中から取り出した。


「……縁…今度からは自分の身の事も考えろ…今回は
俺が油断しちまったからお前も動揺させちまったんだろうがな…」

「……副長?」
「今はお前に副長なんて呼ばれる立場じゃねえよ……名で呼べ」


 副長の言葉に目を見開きながら疑問と疑惑が…
『姓ではなく名ですか?』と訪ねれば
眉間の皺を濃くして、頷かれた。




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