薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□壱
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―チュン…チュンチュン

「!……夢…なわけ…無かったか…」


 穏やかな鳥の鳴き声に目覚めた。

まず、最初に目に映ったのは木造造りの天井で昨夜から腕に
何十かに縛られた縄に溜め息を吐きながら起き上がり


「俺を甘くみないでほしいですね…っと…敵の関節の柔らかさを知らないと逃げられる事もありますぜ…ってな」


 何とも捕まっている立場では有り得ない発言を零しながら
実は案外身体が柔らかいので後ろで巻かれている腕など前に戻し
縄から抜け出す事は出来た
柔軟体質で良かった、関節外しは先ず面倒なんだから。


「って、知れる訳ないと……千鶴ちゃんは隣りだったかな」


 遮られた部屋の襖に手を掛け開いて
中に目を通せば探していた千鶴は眠っていた。


――スタ…
「……ん…?…ぁ…縁さん?」

「すみません…起こしてしまいましたね」


 彼女の隣りに座った所でその細い腕に縛られた
縄を解いていれば瞼が開き、千鶴の頭を撫でた


「ええと……」


 自分を見て誰だか理解したようだが
昨日の記憶は曖昧らしく首を傾げていたので一から説明する


「此処は新選組の屯所…昨日の事は余り覚えてませんか?」


「……ぁ…、そっか」


 ゆっくりと起き上がる彼女の背を支えてあげながら
朝の光に目を瞬かせた後、どうやら思い出したようで


「大丈夫ですか?」

「はい……なんだか昨日会ったばかりなのに…縁さんに迷惑掛けてばかりですみません……」

「いいえ、あそこで会ったのも何かのご縁です…それに、千鶴ちゃんに掛けられる迷惑なら幾らでも受けますよ?」


 何処か思い詰めた表情に首を横に振りながら
役得です、と、付け加えれば千鶴は


「ぇ……ぁ……ありがとうございます…」


 少し笑ってくれて安心した、こんな状況で
笑ってられないだろうが、張り詰めても
仕方ないから少しでも気は楽にしていて欲しい。


「縁さんは、本当に優しいんですね……。私達…これからどうなるんでしょうか」

「……、千鶴ちゃんなら…きっと助かりますよ…」
「ぇ?……――」


 彼らは、きっと千鶴の事を何故だか
女の子とも気付いていないだろうから…俺が
言った事に対しても不思議に思った彼女が口を開こうとした時


「ああ、目が覚めたかい!…あ…縄が…」


 ゆっくりと襖が開いた向こうに表情からして
人当たりが良さそうな人物…名を井上源三郎と名乗った
中年後半位の男性が俺達の腕を見て驚きを露にしていた。
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