薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□壱
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「わ、私……私誰にも言いませんから!」
「千鶴ちゃん…落ち着いて…」


 切なる声が、俺よりも千鶴が
追い込まれていることが分かる
こんな所で命を落とす訳には行かないんだと
…必死な狼狽…今は宥めるしか出来ない。

 早く話の折り合いをどこかで付けないと。



「偶然、浪士に絡まれていたと言う君達が
敵側の人間だとまでは言いませんが……君に言うつもりが無くとも
相手の誘導尋問に乗せられる可能性はある」

「う……」

「話さないと言うのは簡単だが
こいつが新選組に義理立てする理由もない」

「約束を破らない保障なんて無いですし
やっぱり解放するのは難しいですよねえ」


「なるほど…一理ありますね、俺や千鶴ちゃんは
何もしていないのに貴方達に刃を向けられましたし
俺は義理立てより、根には持ってます」
「「……」」

「その辺りは大目に見てやってください」


 厳しい現実は次々重く伸し掛かる…
それの返答は刃を向けられたことによる
個人的私情には土方は溜息、沖田は苦笑い

 切り替えに山南、斎藤に続く言葉


 新選組を護る為ならば手段を選ばない…
いや…新選組の私情挟みとも言ったところか…存外面倒な


「ほら、殺しちゃいましょうよ
口封じするなら、それが一番じゃないですか」
「そんな……!」


「……結論がそれは嫌ですね…貴方達に見す見す
殺されるつもりはありません
黙って聞いていれば何とも回りくどい事だ。

…俺達を最初から殺すつもりで、剰え
彼女までを言葉に填めるつもりだったのならば
…これ以上、黙っているつもりもありませんよ…」

「「「「!!」」」」


 俺が千鶴を庇いながら周りを敵視し、立ち上がると
相手側からも目に見えない程の刀構えが伺えた


「ふふ…良いよ、その目…ゾクゾクしてきた」

「?!……っ」
「……戦いがお好きな事で…」


 千鶴の悲鳴染みた声と…沖田の言葉に
苛立ちを起こさせられた引き金

 彼女に微笑みを向けた後、沖田らの方には
何時刀を抜かれても逃げられるか
対応するかの構えを悟られない程度に取る。


「ーー…雪浪君だったな…気を害させたようだ…すまない
どうか俺に免じて落ち着いてくれ。……皆も、止めなさい」
「!……」

「…総司も…物騒な事を言うな
お上の民を無闇に殺して何とする」

「……そんな顔しないで下さいよ……縁君も。今のはただの冗談ですから」


「殺気まで伺えたあれが冗談とは…ねえ…」


 あまり彼の言葉は信用出来ない
…冗談若しくであの様な殺戮狂の笑みを
浮かべられて冗談だったとは取れない

否、信じられないが本音、寧ろ殺る気満々だっただろう。


「……せめて冗談に聞える冗談を言っておけ」


 斎藤の言葉に照れたような
笑みを浮かべる沖田には性格を疑った…
何処で一体照れる場面が有ったのかと。

 取り敢えず、俺は千鶴と共に改めて座り直す。


「……、この子だけでも見逃して下さいませんか…」

「そうだねえ……何とかならんのかね…まだ、その子は子供だろう?」

「私も、何とかしてあげたいとは思いますがうっかり
漏らされでもしたら一大事でしょう?」


 口でなら何とでも言える…喩え本当だとしても
俺自身だって彼らを信用している訳でも無いのだから言えた質ではない

ーー分からないこともなく


 そして今の会話の中ではどうしようもなく
ただ、震える千鶴の手を優しく強く…握り続けた。
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