薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□壱
5ページ/16ページ






「ま、知られて困ることもねぇよ」


 原田の言葉に気を取り直したかのように
近藤は居住まいを正した。


「……さて本題に入ろう。
まずは改めて、昨晩の話を聞かせてくれるか」


 近藤が会話を向けた先に口を開いたのは
斎藤、彼は畏まった仕草で頷き話し始めた。


「昨晩、京の都を巡回中に浮浪と遭遇。相手が刀を抜いた為
斬り合いとなりました、隊士らは浪士を無力化、そこの彼は
隊士を"完全に気絶させました"
…が、その折彼らが【失敗】した様子を目撃されています」


 そう言い放った斎藤は最初に
千鶴に目を向け後には俺に視線を強く留めた


「…私、何も見てません」


 きっぱりと言い切った千鶴に安心すれば
ふと、土方の表情も僅かに和らぐのが見えた…
立場は違えど、一応は相手を心配してくれる人なのか…。


「「………」」


 しかし、斎藤の無表情と沖田の笑顔の視線は途切れなかった。


「……じゃあさ、アンタはしっかり"アレ"を見ちゃった訳?」


 不意に藤堂が俺に尋ねてくる、回りくどい
その言いにはわざとらしく息をついて口を開き


「"アレ"…と言う言葉が何を指し示すか存じませんが、俺が
ハッキリ見たのは精細不明に、突然、夜道を歩いていた
俺に向かって来た"段だらの羽織りを着た隊士らしき人間ですが"?
…しかも刀を向けるなんて、物騒ですよねえ?
俺は易々殺されたくもないので、一人だけ気絶程度には対応しました」


 完璧に嫌みを含めた物言いを吐き捨て
面白可笑しく冗談に笑って言えば一瞬
場の空気が凍りついた、おまけに目の前の藤堂も
苦笑いを浮かべていた…何も言えないと言った所か。


「…ま……まあ、その話には納得出来るが総司の話では
お前が隊士共を助けてくれたって話だったが……」

「ち、違います!」
「!」


 永倉の言葉で思わず沖田を見据えたが
可笑しく笑っていた……まさか。


「私は、その浪士達から逃げていて……縁さんも
私を助けようとしてくれて…そこに新選組の人達も来て
……だから、私が助けてもらったようなものです」

「じゃ…お前も隊士共が浪士を斬り殺してる場面は
しっかり見ちゃったってた訳だな?」
「!!」


 永倉の言葉に千鶴は動揺していた
彼らが"填める"なんて汚いやり方を…。

 今迄の否定が彼によって咄嗟の反論も出せていない。


(……気に入らない人だ)

「つまり、お前も結局、最初から最後まで
一部始終を見てたってことか……」
「っ……!」


 今更訂正しても遅いが、填めるやり方は気に食わない
ーー…千鶴から更に伝わるその手を前より強く握り締め
彼らから俺は視線を強く離さないようにする。


「………」

「お前、根が素直なんだろうな。
それ自体は悪いことじゃないんだろうが……」


原田の言葉が更なる追い討ちの言葉となる
…必死に口を開くも震える声の
千鶴を見てられなくて肩を抱き寄せ。


(…大丈夫…貴女だけなら逃がしてあげられる…)


 そう言う意も込めて、手に力を込めた……。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ