薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□壱
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「ふざけんなよ、このお坊ちゃまが!
俺らにそんな口聞いて良いと思ってんのか?」

「平助におじさん呼ばわりされるほど年食ってねぇよ。
……新八はともかく、俺はな」

「てめえ……。裏切るのか、左之」

「へへーん。新八っつぁん図星されて怒るって大人げねえよなぁ」


 何処か楽しそうに、そして冗談のような口調で
言い合ったりはしているものの
好奇を含んだ視線だけは
ずっと俺から離されず注がれていたが…。


「……………」


 流石は武士とでも褒め讃えておこうか…。
それでも、その瞳の奥の絶える事の無き敵意が消えていない

 これは、安易には動けないか千鶴の僅かに浮かばれていた
笑顔も消え俯いていて、今も
自分と握っている手には震えが混じっている。


「口さがない方ばかりで申し訳ありません
余り、怖がらないで下さいね」
「!」

「あ……」


 穏やかで優しい言葉を自分達に
掛けた、眼鏡を掛けた彼は、恐らく『山南敬助』

 彼の一言で少しばかり千鶴の震えは止まったようだが
彼の瞳の奥もまた油断出来ないものがある

「…………」

ーー…そう簡単には悟ることが出来ない程の微弱な敵意を。


「何言ってんだ。一番怖いのはあんただろ、山南さん」


 そんな悟りを強調させたかの如く
土方の淡い笑みとは裏腹にからかう口調に
同意するかのように他の人達も大きく頷いていた。


「おや、心外ですね。皆さんはともかく
鬼の副長まで何を仰るんです?」


 心外とは言ってるものの、彼の微笑みも消える事はなく
それを見た土方も土方で薄笑いの侭
何も語らないが妙な空気感


「トシと山南君は相変わらず仲が良いなあ」

(…え〜……)


 こんな状況でなんとも明るい取り方をする者が一名
千鶴と苦笑いを浮かべ見合いながらも直ぐに誰だか分かった


ーー…現代で奉られた…僅かに
石像に似ている新選組の局長、近藤勇。


「ああ、自己紹介が遅れたな。
俺が新選組局長、近藤勇だ、それから
そこのトシが副長で横にいる山南君は総長を務めてーー」
「いや、近藤さん。なんで色々教えてやってんだよ、あんたは」

「……む?ま、まずいのか?」

「情報を与える必要が無いんだったら
黙ってる方が得策なんじゃないですかねえ」

「わざわざ教えてやる義理は無いんじゃね?」


 皆の言葉に狼狽える近藤に同情するように
内心で、勝手教えてるのは貴方達だと思っていれば
ふと、原田が皆を取り成すように笑った。
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