薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□壱
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「さっき僕が声をかけた時には君、全然起きてくれなかったけど……?」


 沖田の言葉に愕然とする千鶴には
悪いと思いながらも内心で笑えてしまった…
だが先程、彼女を起こしに行ったのは俺だ


「千鶴ちゃん…貴女を起こしたのは誰ですか?」

「…!!…そ…そうだった」


ーー残念です……と言ってみれば、後から
理解したように焦りながら謝る千鶴を可愛く思えたが


「……総司はアンタの部屋には行っていないが
日も上がらぬ早朝からそちらの部屋には入っていったぞ」

「…………」


 視線で指し示すように合った彼の指摘
斎藤の付け足された言葉には凍り付いた
気付かなかった自分を恨みつつ…表情を歪めて沖田の方を睨んだが


「あーあ、彼には秘密にしておきたかったのに
……斎藤君は酷いね、勝手にバラすなんてさ」


 全くもって気にしておらず、逆に
微笑みを濃くしながら斎藤に目を向け、わざとらしく
茶化す沖田には俺の眉間の皺も濃くなる


「……斎藤さん、教えて頂き感謝致します…
沖田さんは全く酷い方で、色々と残念です」


 一度斎藤に顔向け、爽やかに笑顔と感謝を向けた
後、沖田には効果がなくとも嫌味言葉を向けてあげた


「……、斎藤君…もしかして狙ってた?」

「…俺は特に何も」


 沖田と斎藤のやり取りに端から
着いて行くつもりは無かったが
それを歯止めする咳払いが一つ


「……おい、てめぇら無駄口ばっか叩いてんじゃねぇよ……」


 この終止符に沖田は口を噤んだが笑顔は消えてなかった。


「でさ、土方さん。……そいつらが目撃者?」


 千鶴を一瞥した後、異観に再び俺を凝視する
見た目、年若く髪を高く括った青年と


「「…………」」


 見た目から彼らを合わせては不良の集まりのような三人組


「……そいつ本当に男?目茶苦茶肌白いし…華奢だし。
………後ろの奴なんかちっちゃいし細っこくてまだガキじゃん」


 そう言う彼は多分、此処に来るまでに井上に説明されていた
『藤堂平助』と言う新選組最年少幹部だろう


「…本当にな……つーか、お前がガキとか言うなよ、平助」


 千鶴と合わせて観察するような眼差しを向け
喉奥でクツクツと笑っている赤い髪の青年が
『原田左之助』と言っていた


「だな。世間様から見りゃお前もこいつも似たようなもんだろうよ」


 緑色の波模様が描かれた鉢巻きを括っている彼が
『永倉新八』だった、しかも、無駄に神妙な面持ちで
頷く彼も、彼らの言葉にも俺は苦笑を零し
ぽかんとしている千鶴の頭を撫でたが。


「うるさいなあ、おじさん二人は黙ってなよ」

「ぐ……っ」
「縁さん……」


 藤堂の言葉に笑いが噴出し掛け
咄嗟に口を塞いで横を向けば
千鶴も僅かに苦笑を浮かべてた。
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