薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜
□壱
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「勝手に申し訳ないですが…この子には余り
この様な境遇を受けてほしくないので
お咎めならば俺のみにして頂けますか…」
「?!、縁さん…」
「…いや、構わんよ逃げないでくれれば…
此方こそ、すまんなあ、こんな扱いで…」
まだ、歳も幼いであろう千鶴には
あまり縛られる境遇を受けてほしくない…
彼女を庇えば井上は苦笑を浮かべながら首を横に振っている
「ちょっと来てくれるかい」
「え?」
「今朝から幹部連中で、あんた達について話し合っているんだが……あんた達が何を見たのか確かめておきたいってことになってね」
「なるほど…」
「……分かりました」
昨日の出来事について語る、その話し合い
場合によっては悪い方向にも向くかもしれないだろう。
「千鶴ちゃん……手を」
「ぁ…ありがとうございます」
無言で頷きながら立ち上がった
俺と違って千鶴はやはり動揺でもしているのか
…よろけながら立ち上がる彼女に手を差し延べれば
それを握る彼女の手ーー…優しく握った。
「心配しなくても大丈夫さ、なりは怖いが気の良い奴らだよ」
「はあ……」
何処か微笑ましそうに井上は明るく言ってくれるが
此処に来ていきなり縛られたのだから
千鶴にとっては、あまり良く思えないだろう。
「……………」
俺にとっても余り良い風には取れないが
あの新選組の幹部格に出会えると思うと
不謹慎ながら楽しみが勝ってしまっていた。
* * * * *
***
井上に案内され辿り着いた広間らしき場所
予告通り、新選組の幹部達が俺達を待っていた
ーー…入っては一斉に突き刺すかの如く
向けられる見知らぬ者達の視線
少しばかり俺の背で身を固くする千鶴を心配するも
次には無駄に此方へと視線が注がれてくる
…男の視線を浴びてもあんまり嬉しくないな。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
「…げ……」
「……あ」
その中で最初に声を掛けたのは沖田、昨日の出来事もあって
俺はあからさまに嫌な顔をしたが
背後の千鶴にとっては見知った顔に安心できたのか
僅かに力が抜けている、少し落ち着いたのかな…。
「……寝心地は、あんまり良くなかったです」
「ふうん……。そうなんだ?」
沖田の問いに、最初に答えた千鶴にニヤニヤと
笑いながら彼女に顔を向けては、次に俺を見据えた。