薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□序
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 こんな事は彼女も言われずともなのだろうが
俺にもとても頭が痛い光景だ…身体がわななく。

 千鶴の腕を引こうにも、この場に溢れ返る
血の匂いに先程の光景では彼女の足に力が入っていなかった。


―スタッ…
「……、千鶴ちゃん…大丈夫…落ち着いて
深呼吸して……立ち上がってみて下さい…」

「……は……は…い…っ」


 自分としてもこんな所で悪い癖を出す訳にはいかない…
千鶴の手を強く握り締め、なるべく
落ち着くような声音で優しく言葉を掛けてみたのだが。


――ガシャンッ!!
「!!?」

「!、大丈夫ですか?」


 尚更、力が抜けてしまったのか、立ち上がる際に
再び膝の力が抜けたらしく崩れ
彼女の足は立て掛けられていた木の板を倒してしまった


――ザッ…ザッ…
「っ!?…」
(…マズいな)


 音に当然気付いた彼らは浅葱の羽織や自身らの身体に
べっとりと返り血を染めてる姿で振り返り


「…普通じゃ…ないな…」


 俺から見ても明らかに異常で、あの雰囲気は人でもない
千鶴と俺を見て、彼らは新たな獲物を見つけたかのような
狂った歓喜に赤い目を輝かせ震えている…

 そんな姿に千鶴は更に震えを募らせていて
俺自身も、渇きを覚え始めた


「ーーっ!」

(…最悪の状況だな……千鶴ちゃんの前では、流石に…)


 なんとか必死に、俺の手を握って千鶴は立ち上がろうとする
だが上手く力が入っていない…今更、彼女を抱えて
逃げようにもそれでは追いつかれるのは目に見えている


――シュッ…
「千鶴ちゃん…すみませんが…お借りします」
「え……縁さん…」

「背を壁に、そこから動かぬように…」


 恐怖と驚きの狭間に彼女の腰から小太刀を抜き取り
鞘を抜き、こちらに駆けて来る人ではない者へ刀を構えた。


「ひゃはははっ!!」

――ガキィィンッ!!
「っ……ずいぶんと、乱暴な……振り方ですねっ!」


一振り目は思っていたより重かった
だが力ならこちらも無駄にない訳ではない


――シャッ…ガッ!!
「ひぎゃっ!?」


 借りた刀の峰で刃を流し、弾き返し
医学や解剖学に慣れていた為、抵抗無く刃に返す
人を切るのに躊躇いは無い

 結果、致命傷ではない程度で敵の首を切り開き
確実に神経を麻痺させる為
血が流れ出ても構わず壺であるそこを

――ズガッッ…
「!?……」


 靴先でなるべく強く蹴り入れた


――ザザッ…
「上手く…突けたか」
「縁さんっ、後ろ!!」

「……!?」


 動かなくなった狂い人、何とか殺さず
殺されずにも済んだが敵の首を切った拍子に
俺の顔に掛かった血に
渇きを酷く覚え、それが隙にもなってしまった。


 千鶴の声にハッと後ろの気配に振り返ろうとしたーー刹那。
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