薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□序
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「ーー……縁さんの手って…なんだか落ち着きますね…」

「?……、そう、ですか…俺の手でさえ宜しければ何時までも握らせていただきますよ…」


 座っている為でもあるのか、俺の肩くらいの
座高の高さである千鶴の表情が悲しそうに見えたのは勘違いか…。


―サァアアア……

「……あの…縁さ…」
「!…し……千鶴ちゃん……少し表の様子がおかしい…」

「…?」


 暗闇でもあるがその中で千鶴と目が合い何か言い掛けた瞬間
俺の鼻腔を霞める血の香りが漂う…
彼女の口元を一時塞いだ。ーー……が。


「ぎゃああああああっ!?」


 先程の浪士らしき絶叫が辺りに響き渡り
確かな血の匂いが、漂った。


「な、何……!?」
「待てっ…千鶴ちゃん!」


 突然の絶叫に立ち上がる彼女は忽然と俺を飛び越えた。


「畜生、やりやがったな!」
「くそっ、なんで死なねぇんだよ!
……駄目だ…こいつら刀が効かねえ!!」


 騒ぎが大きくなり、後からも浪士達の絶叫が響く
路地から顔を出し駆けて覗き込む千鶴の肩を掴んだが遅かった。


ーーガキンッ!!


 暗い路地から見るには明るい月光に照らされた
白刃の閃き…翻る浅葱色の羽織が瞳に映る。



ーー…赤い景色が、地に広がる。


「ひ、ひひひ……」

―…バッ
「駄目だ、千鶴ちゃん!見てはいけない……っ!」
「え?…っ」


 最初から人が死んでいる光景を見て尚
更に人が斬られるところを見せるのは彼女の精神状態を考え
喩えこの時代には意味が無くとも…せめて…目を塞いだ。


「た、助けーー」

――ザッ……ビシャッッ
「うぎゃああああああっ!?」


 千鶴の目を塞いでも音を塞いでいない以上、人の肉が斬られる
断末魔…甲高い狂ったような笑い声が重なり響く。


「ひゃははははははは!!」


 背後から抱き締めるよう彼女の目を塞いでも
無駄な行為だったのかも知れない…
…身体から余すことなく震えが伝わってくる。


「…………」

「……あれは…」


 だけど俺の目にはハッキリと映し出され、繰り広げられる
見知った浅葱色の羽織りが成す乱れ靡く滅多切り。

 広がる血の海に……自身の身体も


――ドクン…


「!!……っ」


 相変わらずーー…悪い癖が出る躯だ。

 あの血を求めようとして…
釘付けになってしまう躯が欲してしまう。



「っ……いけませんね…」

「…縁…さ、ん」

「……、大丈夫ですか…?早く…此処から
離れた方がよさそうだ…あれは、よくない」
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