薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□序
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「ええ…すみません…。こちらからも、一つ
お尋ねしたい事があるのですが…よろしいでしょうか?」

「はっ…はい……なんでしょうか?」

「そんなに畏まらないで下さい…下らない事を聞きますが、今は…文久で?」
「えっ!?……ぁ…はい、文久の三年です…」


 こんなことを聞いて彼女が驚くのも無理はなかっただろう
だが、これで自分は確信が出来た。


「……、そうか」


 自分の身に起きるまではタイムスリップなど誰が信じようか
…こんな非科学的な現象を……まさか…自身が身に味わおうとは。


「…貴方は……あの…異国の方…なのですか?」

「…いや、歴とした日本人です……この身形…珍しいですよね?
…君みたいな女の子なら、驚くのも無理はないかな…?」

「えっ?!…貴方…私が女の子だって……分かり…ますか?」


 黒シャツに黒ズボンでは今の時代にとっては
まだ驚く品物であろうが、この姿も。
しかし彼女は女性と告げられた事にも驚きを隠せていなかった。


「…はい…もちろん君みたいな可愛い女の子
そんな男なんかと間違える訳がありませんよ」

「いっ…いえ…私、可愛くなんか…!」


 顔を赤らめる彼女が可愛いらしく微笑みを介しながら
今日、初めて会ったにも関わらず俺は彼女の頭を撫でていた。


「そうゆうところもまた、可愛いですよ……君のお名前は?」

「…ゆ、雪村千鶴です」
「嗚呼、やっぱり可愛い名前だ……俺は…ーー」

――ザッ

「おい、そこの小僧共」


 自分も自己紹介しようとした、その刹那
突然の足音、そして引っ掛かる言葉。


「っ!?」
「…おや、帯刀して…浪士かよ」


 彼女は弾かれたように振り返る、だが
俺は良いところを邪魔されたとばかり、不機嫌顔になる

 その方を見てみれば三人の浪士がこちらに…
特に千鶴とその帯刀にも視線を向けていた。



(腹立つな…コイツら)
「……な、何か?」


 自分はあからさまに苛立ちを露をしていたのだが千鶴は何処か
動揺している様にも見えたが、咄嗟に小太刀へ手をかけていた。


「ガキのくせにいいもん持ってんじゃねぇか」

(嗚呼…この時代なら追剥ぎも有りか…でもやっぱ腹立つ…)


 浪士が注ぐ視線の先は千鶴の小太刀とこの身の服装だ。


「小僧共には過ぎたもんだろ」

「身包み寄越せ。国の為に俺達が使ってやる」

「こ…これは…ーー」
「何言ってくれてるんですか? アンタら。……誰が
テメェらみたいな奴らにやる物など一つもないですよ」


 俺の言葉に一斉に集中する視線、千鶴は焦っている様だが
俺には都合が良く口角をニヤリと吊り上げながら足に力を入れた。


―ザッ…
「貴様ッ…誰にモノを向かって」
――ドカッ!!……バキィッッ!
「…がはっ!?」

「っ!!」
「う"おっ!!?」
――ドシャァァッッ…!!


 浪士が俺に掴み掛かろうとした刹那、力強く握り締めた拳を
浪士の顎に打ち付けた後に次いで回し蹴りで残り二人を蹴り飛ばした。


「おやおや…良い音が出せたじゃありませんか…。
……だがな…千鶴ちゃんと良いところを邪魔しやがって
腹立って仕方ねえのさ、貴様らさっきから聞いて…うぇ!?」
「に、逃げましょう!!」


 怯んでいる浪士達に今度は俺が掴み掛かろうとしたが
突然、千鶴に腕を引かれこの場を離れる事になってしまった。






* * * * *

***


―――ダッタッタッタ…タッ…

「っ…もう此処まで…来れ…ば大…丈夫な、筈…です…」
「……大丈夫ですか?」

「は…は……い……」


 走って数分、千鶴に引っ張られるままに
隠れたのは狭く暗い路地だ、隠れるには絶好…かも。




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