〜尊いし眸〜

□十八章
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「…ふむ、私の見た限りでは猟奇的な人間に見えたな、無力なこの鳥から翼を奪って何とするやら…」
「!!……蒼空…」


僕の隣に並んで膝を降ろした人

夕闇の影が消えて見えた…この人の眼、なんと勇猛に見えて


「どこまでも人間とは欲望に忠実でそれに尽きない生き物だ」

「!…、……」


あの僕の嫌いな…蒼空を奪った人間と同じような眼をしてるのだろう…だけど、不思議と嫌悪感が無い…あるのはその視線が見据える先への興味と彼自身、自らの理解

人間と言う性の
本質を理解してる

何となくそう思えた…


「だが、不思議だよ…卿とこの鳥を見てると…卿自身を見ているようだ――…何とも壊れやすそうな小鳥をね」

「……僕は…もう死んでる…」


ふと僕の頭に乗った彼の手、それは壊れ物を扱うかのようで…僕と目を合わせると彼はなんとも物珍しそうに左目を見据えた


「ははっ、欺瞞欺瞞、卿は面白い事を言ってくれる…死者は"人の夢"を見たりはしないのだよ、分かるかね?」

「………」


本当にこれは夢なのか…僕は彼の視線から逃げるようにして無意識に剥き出しである鳥の死体を…再び土を掛け、それを見た彼は手を戻し満足したように立ち上がった


「……この夢現を楽しむのも一興かと思ったが…どうやらお別れの時間のようだ」
「!………目覚め…?」

「嗚呼……今度、卿とは夢現ではなく現実で会いたいものだね……よもや人間によって壊れいずった小鳥を私の手元に置き、その囀りを聞くのも粋な事か…それとも卿を極限までに追い詰め壊そうか…」

「…………」

「――…では失礼するよ…"奥州の小鳥の君"…次に私と会う時、卿がその鳥になっているのだろうね…」


そう言うと、目の前に居た筈の彼は消えてしまった

恐ろしくも…最初からそこには誰も居なかったのだと出張するよう、全く、何も…


「……あの人…僕を知ってるのかな…」


頭を撫でられた感触も妙にリアルだった、本当に撫でられているみたいで何の反応も返せなかったけど

それでも、何れあの人とは会うのかも知れない


「……大丈夫…もう奪われるものなんてない…筈。だから…おやすみ……蒼空…」


…いや、会いたいのだろうか…纏まりつかぬ考えの侭、別れの言葉のように僕は蒼空が眠る地を撫でた

返事なんて返ってこない
だってこの子は死んでる
奪われて…死んでしまった


でも、僕はちゃんと頑張って
生きるから、安心してよ…



安心して、再びお休み…――







* * *

「……………」


そして、目が覚めた

なんと朧気だが先の夢が鮮明に甦る…アレは本当に――…夢?


「…………」


徐々に夜目に慣れ障子から差し込む世明かりに此処が小田原城の中だと悟った

それに自分の姿を見れば寝間着
僕は布団の中で
寝かされていたようだ


「………夢現…」


無意識に零れたその言葉思わず起き上がり空気通り良くする為か開けられては窓枠まで這いずり肘を掛けたその上に顎を乗せ力無く夜空を見上げた…

現代の人工的な灯りがない時代
星空が鮮明に…どうしようも無く綺麗に輝いてる


――…僕は何が不安なのだろう
そんな物は無いのに

生きていたから…?



 否…それでも、政宗様は
怒ってくれた
必要と言ってくれた

 昨日、僕の我侭を聞き受け
刃を交えてくれて
小十郎さんも僕を認めてくれた

生きても意味は無く
死を追い求めても双竜は
それを否定して
全力で僕の生を繋ごうとする


僕は何もしてないのに、何故?

 たまに思う

この時代で異質だから
天下を狙う武将に
狙われるのは分かる

 蒼空と共にいて
この子が常に覇を唱える者の
 側に居ただけでも、異色で
誰もが目を引くそれは
偉大な威厳を放つだろう


だけど、そこでも
今、僕が出会った竜虎らは違う

 蒼空は僕の友として
僕は常に一人の存在として…

 僕を人として見てくれる


ではそうなると、何が不安で感じるのかこの胸にぽっかりと存在するとても深い穴…虚無感


「………………恐…い…」


 僕の回りに何がある

何も無い、何も出来ない

それに役立てない

 敵を振り撒いてばかり


 …僕の回りに居るのは所詮…


 人間だ…やはり彼らも
こんな事では何時か愛想が
尽きるのでは…


 違うと分かっても

 国を担う者として
犠牲無くして這い上がれない
竜は何時までも天を目指す

 ならば犠牲が
無い場所なんてない

同じ物に何時までも執着を
持ってはいけない筈では

 知らずに彼らの
重荷になってるのでは


―バサッ…
「答え……聞きた…い…」


根暗な気持ちを捨てるように
何を血迷ったかと近くに縦掛けられてあった燕尾の外套を纏い躊躇いなく窓枠に足を掛け飛び立った

此処は城の天守に近い為高さは現代のマンションに例え4〜5階位ある


―ヒュゥゥ…トサッ…
「………」

…だが、風に抗わないこの身は夜空を駆け、忍以上に軽やかに易々と小田原城の城外へ出た


 向かう目的は無い
だけど夢で会ったあの人に
会いたいと言う願いはあるから


「……南、北」


何となく風の示す侭
そちらに向かえば良いと思った


―シュバッ
「…、……」
「……小太郎…」


「………」


黒い羽が散った…目の前には小太郎が無言で行く道を遮ってる
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