〜尊いし眸〜

□十七章
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「あれ…梵、小十郎と聖
…二人で何か始める気?」

「play in real earnest heart
<真剣勝負をする気らしい>
…全く、小十郎も
何だかんだ言って甘いな」
「ちょっ…長くて理解が
出来なかったんだけど!」

「成実殿!片倉殿は聖殿の熱き思いに応えんと真剣勝負を受け持ったのでござるっ、己が刃で聖殿の気持ちに応えようとしているのでござろうぞ!!」

「あっははっ、熱き思いって真田の兄さんみたいにウチの聖はそんな熱血じゃないからね、えーと、そう!梵なりに言えば『きゅぅと』って言うんだから
………、って、え"ぇ"えええっ!?はっ?真剣勝負?!聖と小十郎とで
タイマンってこと!?


なんで!どうして?!」

「shit up!!耳元で騒ぐな
……小十郎のことだ
ちゃんと考えてんだろ」

「そうですね…普段の小十郎でしたら止めてる筈…聖の状態も分かった上、真剣勝負の相手をするのですから…」

「異母弟の鬼庭の旦那が言うんだから…まぁ…でも俺様は心配で心配で見てらんないよ、ああ〜どうしよ、これ…聖ちゃんに味方しちゃ駄目かな…」

「真剣勝負に水を差すような
真似をすれば
小十郎の怒りを買い
唯では済まなくなりますよ?」

「うっは〜……」


何だか見学者が
縁側に増えてきてしまった…

特に、佐助や成実さんは
心配そうに見据えてる

政宗様や綱元さんは
小十郎さんや僕を
信頼してくれてるから
一切口出しするつもりは無いのだろう…彼も真剣に事を見守ってくれるらしい…

幸村さんは真剣勝負そのものに
燃えていた…
けど、彼自身も真剣に
見守ってくれる様子だった…


「聖、これは俺とお前の
真剣勝負だ…外野は気にするな
今、目の前の相手だけに
集中しろ…意識を切らすな」

「!、はい」


だけど、今は目の前に集中だ
小十郎さんも真剣そのもの

伊達軍で随一の達人
…そんな人が素人である
僕の相手をしてくれると…


こんな経験は二度と無い

もう迷惑を掛けられない



―ジャキッ…

「片倉小十郎…推して参る」


小十郎さんの目が変わり
刀の刃を裏返した…

真剣勝負…戦場ではないが
相対する際
名乗り上げるのは礼儀だった筈


―シャッ…ジャキンッ

「鋪乃聖…羽ばたき、参る」


礼儀を返し意識を集中させ
槍を出した…この槍は普段から
僕の手元にはない…

だが、あの子が居なくても強く願えば顕れてくれる不思議な槍
対短刀もお陰で何時も手は空く


僕は無力だから。

でも、この槍も短刀も力を
貸してくれる
僕の無力を補ってくれる

大丈夫、例え
あの子が居なくても
自分の力を示してみせよう…


―ガキィイインッ!!
「!!」
「…っ!」


小十郎さんから、地を蹴り
第一刃を貰った


(最初から本気ですか…)
(真剣勝負ともなりゃ
手を抜かねえのが小十郎だな)


……刃の峰、だけど一太刀
防ぐだけでも重い…

その後からも第二、第三度
繰り出される金属の噛み合いが響く、此は唯の重さではない


「よく聞け聖、真剣勝負は互いの力を惜しみなく発揮出来る戦い…命せめぎ合う真剣の戦い、同時に相手を傷付けてまでの本気の戦い、勝敗を決しなければ意味がねえものだ」
「!!…」

「俺はお前を傷付けるつもりはねえから峰だ…だが手加減はしない…しかし覚えておけ、お前らは常にこの世界では奪われる存在なんだ……人間に」
「?!…!」


小十郎さんの目とも絡み合った
その瞬間、僕は本能的に我武者羅に槍で振り払い距離を取った


「…臆したか」

「!…そんな、こと…っ!!」


一瞬の恐怖が頭を駆け巡った
これは、単純に恐いではない…

異なる両眸の奥を…

僕の弱さを引き摺り出す…
自分が認めたくないことを
否定し続けて


いや、そんな事など竜の右目は
最初から見抜いてる


人から…逃げている事を…


―キュルルルッ…ザッ
「まずはその甘さ…真剣勝負に雑念は捨てろ!」
「?!…っ…ぅぁァ"ッ!!」

『?!!』


鳥の声に似た鳴りが聞こえた後
目の前を青白い紫電が身体を貫いた、僕の記憶が正しければ
先のは間違いなく
小十郎さんの固有技 "穿月"

普通ならば、刃の切っ先を
真っ直ぐに貫く、鋭き雷

だが本番での戦いでない為か
刀の柄を使った貫き
それでも急所狙いでないのが
本当の幸いか……。

しかし身体を、貫くのが穿月
とても強い痺れと
投げ出される勢いに武器は離さなくとも
柔な身体は簡単に吹き飛ぶ


―ヒュゥゥッッ………トスッ
「!」
「……、…」


頬に掠める風を感じながらも流れに逆らえず吹き飛んだ身体は地面に衝突しようとしたが中々衝撃は来なかった

不思議に思い
恐る恐る目を上げてみたら


「……小…太郎…?」
「…、……」


倒れかけた背を支えてくれた
表情に出さなくとも雰囲気からは、何故小十郎さんと戦っているのかと困惑したような小太郎が僕を見下ろしてる


「……、…ありがとう…」
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