〜尊いし眸〜

□十六章
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―キュルル…―



……どうして…お前は赤く

染まってる…の




―…キュル…ル…



冷たいよ……どうして…





…………聖の……

…手の中…で……

"死ねて……良かった……"


……あり…が……と…う





!!?……蒼空…なのか…

蒼空……っ…また…
僕を…置いていくのか……


"共に在る"って……


言ってくれたじゃないか……っ


……………蒼空…ッッ…











* * * * *

「!……、…また……夢」

嫌な夢から覚めての景色…

知らない天井
知らない部屋の空気
知らない布団の中で……僕は


嗚呼、そうだ…
僕の所為で起きかけた戦…
小田原城での伊達と北条の…

(……、じゃあ…此処は小田原……そう言えば小十郎さん…伊達は表では北条と同盟…)

あの時はよく分からなかった
だけど改めて考えたら
引っ掛かる言葉で
一度起き上がってみた…

昨日とは全く違う…
忍の刃を身に受けたにも
関わらず、意外と僕の身体は
気怠いだけで痛みは無い…

刺された部分を確かめても
どうやら包帯が
巻かれているようだけだが
傷口が見当たらない

…蒼空は眠ると言っていたから
やはり…あの子が僕を

でも……どうしてまた
あんな"嫌な夢"を…


―シュッ…タ
「……、まだ…起きては…」
「!…小太、郎」

小さな風の音を鳴らして
現れたのは小太郎だった

僕と距離をとっているが
心配そう膝を付いて控えた…

「……傷…」

「?……、大丈夫…何とも」
「!…、……」

そう言うと小太郎は勢いよく
顔を左右にブンブンと
音がするくらいに
そんな訳が無い、と振っていた


「……、本当に大丈夫……僕…
蒼空……巨大な鳥に、また助けてもらったから……小太郎や佐助さんの刃をこの身体でも受け止める事が出来た……生きる事が出来た…」

「……、巨大な鳥…聖が…小田原城に遣わした…鳥……"親鳥"…?」

「?…珍しいね、小太郎が
そんなに言葉で
伝えてくれるなんて…」
「…!……」

が、不思議そうに問うたら
小太郎は慌てて
口を閉ざしたので少し笑い

「………蒼空って言うんだけど
僕の友達なんだ……ぁ…でも僕自身が小鳥なんて言われてるから…親鳥…かもしれないね」

「……、………」


表情読めなくとも
気掛かりそうにしてる
小太郎の様子は伺えた


「……、昨日は全然身体が
動かなかったけど、今は
なんともないから
……氏政お爺さんは大丈夫?」

「…翁は何ともない」

「…そう……。小太郎……
北条軍…辞めたりしないで…ね
…みんな小太郎を頼りに
してるから、寂しがるよ…」

「!?……、…聞いたのか…」

「うん…小十郎さんに…」


この際だから、言葉さえも
解さなかった筈の忍…

思い過ごしでもいい
でも僕に言の葉を伝えてくれる
小太郎には北条に居てほしい

もう伝えてくれるだけでも充分

…罪滅ぼしなら…いらない


「………己が意志…
…小鳥に……決めた意…
覆そうとは……思わない」

「!…でも…さ……"帰る場所"
…小太郎の帰る場所が
無くなるのは…嫌…」
「…!!……鳥が……小鳥が…
飛べなくなるのは……」

小太郎の言葉が少し辛そうな
口調で紡ぎ出し、僕の手を握る
彼の手は…震えてた…


「心配…してくれてたの?」

「……、己が刃……鳥の…聖の身を…貫いた時………初めて…失う怖れが…」


小さく頷く小太郎に…僕は
驚愕と不思議さの合間に
彼が心配してくれていたと
言う事に何だか信じられない
気持ちになった…


「…失う……僕を…?」

「…、……」


強く手を握る小太郎の手が…

…僕は…生きているんだ…


人の手は簡単に命を奪える
僕の命など…偏見した命…

……、そんなモノなのに


…この人は…


「小太郎、……僕ね…多分
自分が生きているって事…
大地や空を仰ぐ為のこの命…
最初から……浅はかに…
大切にしてないと思う…」

「!……、…聖…」


"この人も"…見てくれるんだ…

こんな濁ってしまった命を…


「……でも、心配しないで…
小太郎のお陰で…少し
分かった気がするから…」

「……そう、か…」


それでも、正してくれる…
分からせてくれる…

…教えてくれるから…


「そういえば政宗様達は……」

「城下……竜は…若虎と刃を」

「?……、鍛錬…?」

「…、……」


「政宗様……怒ってた…?」
「……心配しながら行った」
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