〜尊いし眸〜
□十伍章
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―…決めるのは…聖……
我は汝が望む侭に汝となる…
『汝は我…我は汝だ』
何時も傍に……喚んで…―
―ヒュン……
そう言って鋪乃は消え…
その場には二つ短刀が残された
[HELL DRAGON!!!]
[唸れ!!鳴神!!!]
―ドゴォォオオンッッ!!
―ガタガタッ…
「ぅゎ…っ……ぁ…あの声は」
突然の地鳴りに地震に近い揺れ
そして聞き知った声に慌てて
小窓の外を覗けば、砂埃が
栄光門から吹き出していた…
―ダッタッタッタッッ!!
「小鳥の君殿!」
「?!…ど、どうしました?」
突然雪崩れ込むように入ってきたのは北条の兵士、慌てて僕は短刀を懐に隠し平然を保ちながら訪ねた
「奇襲にございますっ!伊達軍の奇襲!此処は危険っ、今すぐに氏政様の元にいらして下さいっ」
「小鳥の君殿!どうか氏政様に何卒お力添えを!!我々では適いませぬ!」
「ぇ、あ…」
が、兵士達は平然どころか
落ち着きすら保ててない
腕を引かれるまま、兵士達の
説明によると、どうやら大将である北条のお爺さんは持病の何やらかんやらで動けないとかで…しかも重厚な筈の栄光門が壊されかけている今、遅かれ早かれ事態が急変したのでせめて同盟の話しと伊達軍とまさかの武田軍まで居て…僕に説得して欲しいとか…
「小鳥の君殿は!!」
「此方だ!あまり騒ぐな!」
「…あの、伊達軍と武田軍が北条を同時に攻めているんですか…?」
「は、はい…しかも二軍の小勢でありながらかなりの押され具合っ…ただ者では…」
確かに…さっきの声が本物ならあの人達はただ者でもないだろう…婆娑羅者…足軽達では到底適わない
「あわわわっ…え、栄光門が…
ぉ、おお!小鳥の君よ!こっちぢゃ、こっち!あ、あれを見てくれいっ、もう大惨事ぢゃあぁぁ!!…ごほ、ごほ」
「…だ…大丈夫ですか…?
ぁ……栄光門に…穴」
「あぁあああ…御先祖様が守ってきた城があぁぁ…風魔の奴は何をやっておるんぢゃい!」
兵士達に引かれる侭に辿り着いのは氏政お爺さんの元、小田原城の最上階らしき場所
…桜木が佇む中それに見越した先は城下が見下ろせて場内の様子が伺えた
―ピリ…ピリッ……
「?!……?…」
―ダッダッタッタッッ!!
「氏政様!報告です
傭兵の五本槍が敗れました!」
「ご…五本槍…」
「な、なんぢゃと!五本槍が…っごほっごほっ……で、では風魔は!風魔はどうしておるんぢゃい!」
「申し訳ございません!
忍殿の状況は不明ですっ」
斥候の知らせに僕は気が抜けしつつ北条のお爺さんが腰を抜かした為に驚いて支えてあげた…ついでに、何故だか
妙に静電気のようなものが一瞬身体をすり抜けたが気にしないようにして冷静に事を考えた
「小太郎が……それにみんなにも、また迷惑を…」
「……最早これまでぢゃ……こ、小鳥の君よ!お主を此処に連れてくるように言ったワシが言うのはおかしいかも知れん…ぢゃが、どうかお主の力で伊達の者達を止めてくれいっ…この通りぢゃ…っ」
「……北条のお爺さん…一つ…聞いていいですか…?」
「な…なんぢゃ?」
ちゃんと聞いておかないと…
北条のお爺さんは奥州を攻めたり戦を無闇やたらに起こしたりするのでは無いのだと…
「…北条のお爺さんは……ただ
僕と話をしたかっただけですよね…?…巨大な鳥の話しについて聞きたかっただけなんですよね…?」
「う…うむ…確かにそれは」
「…………、……」
北条のお爺さんは自身の顎髭を
撫でながら申し訳なさそうに
頷いていた…この人も
巨大な鳥について
知りたかった人々の一人
それなら今更だ…仕方無い…
「分かりました
僕がなんとしてでも
政宗様を止めます…
これ以上、北条の人達にも怪我させる訳にもいきません…」
「こ…小鳥の君よぉぉ…っ」
こうなれば僕の所為なんだ…
僕の所為で争いが生まれたんだ
…ならば、その僕が止めないと
―タッタッ……タ…
「…僕の元へ……蒼空…」
―ヒュンッ…ビュゥウウウッッ!!
「ぎょわああ?!!な、なんぢゃ
なんぢゃあれはぁああ!!」
北条のお爺さんから離れ桜木の近く…僕は願った…鋪乃が
僕の元に来ててくれることを…みんなを助けるのに
力を貸して欲しいことを…
―バサッ…バサッ…
『…やっと……喚んでくれた……聖……汝の願いはしかと受け止めた…我の背に』
「蒼空……ごめんね…」
『謝らなくていい……我は何時も聖の力になる……、…何時も…何時までも…』
「………ありがとう」