〜尊いし眸〜

□十泗章
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「……、ぁ…畑だ」


「興味あるか?
此処の作物は俺や農民達が
大切に育ててる野菜だ」

「そうなんですか…
凄い…色んな野菜が一杯…」
「…一日二、三膳に葱を
入れるのは勘弁なんだがな…
もう少し工夫ってのを…」
「何か仰いましたか…?」

「い…いや…」
「…葱……?」


摺上原から降りて
米沢城付近に戻って来た途中

行きは通らなかった筈の
村里や畑を
馬に乗りながら通った


「政宗様〜、片倉様〜
何処かへお出掛けでしたか?」


「おう、お前等
何か変わり無かったか?」

「ありがとうございます
御陰様で特に
何も変わりないですよ」

「今年も良い出来具合ですよ
後で城にお持ちしますね」

「嗚呼、すまねえな」


その途中で農民の人達に
声を掛けられた
政宗様達は馬から降りて
状況の話を聞いていた……

とても親しそう…


これも政宗様達が
大切に護るもの…


「…あの…そちらのお方は?」

「…!………」


「嗚呼、こいつが例の
little bird…【小鳥の君】
……俺達の大切な家族だ」
「!……」

「オメェ等には何時も
心配を掛ける……だが
この奥州には何人と
近付けさせねえから安心しろ」

政宗様や小十郎さんが
そう言うと、農民の人達は
納得したかのように
微笑んで僕に頭を下げた


「ああ、このお方が…何ともこの奥州にお相応しい方で…可愛らしい子ですな、ふぉふぉ」

「ですね、まさか噂の
【小鳥の君】がこんなに
可愛い子だっただなんて、お目通りが叶えただけでも有り難いことです」

「お…お爺さん…
奥さんも……僕は…」

「HaHa 男に可愛いは無いが
聖は別だな?」
「ま…政宗様まで……」


「政宗様も御熱中とは本当のようですね、ふふ」

「困ったもんだ、少しは主としての勤めももう少し熱中してもらいたいがな…」


髪で隠していても左目の事が
気になった、だがみんな
人当たりが
良い人ばかりで戸惑った…


―…クイ、クイ…
「…………」
「?……、どうしたの?」


穏やかな農民達に囲まれた中
ふと、燕尾外套の裾を
引っ張られ、見下ろせば
花を持った5、6歳くらいの
女の子が僕を見上げていた


「…お兄ちゃん…これあげる」

「!…、百合……山百合かな
……君の名前は?」

「私、キヨ」
「こら!キヨ!政宗様方の
聖さんにそんな花を…っ」

キヨと名乗った女の子の
母親だろうか、焦ったように
無礼でしょ、と言う姿には
笑って首を横に振り
再び膝を折って
キヨちゃんと向き合った


「あ、気にしないで下さいね
……キヨちゃん…僕は聖…良いの?こんな綺麗な花…」

「うん、向こうのお山に
沢山咲いてるの
何時もおっ母にあげるの
でも、お兄ちゃんにもあげる」

「………、ありがとう…
キヨちゃんは優しいね」

「うん、だってキヨとお兄ちゃんはもうお友達だもん!」


無垢な女の子の瞳は澄んで
偽り無き言葉…

この子の言葉がまた嬉しくて
一緒に笑い合っていたら
ふと頭に手が乗った


「嬉しそうだな…
子供は好きなのか?」

「はい、好きです…無垢ですし
何より…可愛いですしね」


見上げると政宗様と小十郎さんが優しい表情で僕達を見下ろしていた


「お兄ちゃん、この先の裏山に
もっと沢山のお花が
咲いているんだよ
一緒に見に行こうよ!」

「…え……裏山……」


キヨちゃんに花を
一緒に見に行こうと言われた…
この子が示す場所は近いが…

……だが、もう時刻は夕暮れ…
政宗様達にまた
心配を掛けたりするのは…

だけど、この子の誘いを
断るのも気が引ける…


「聖…行きてぇなら
行っても構わないぜ?」

「ぇ……でも…」

「気が引けた面して
何言ってんだ、構わねぇよ
近くだ何かあれば
直ぐに駆けつけれる」

だが政宗様は僕の気持ちを読み取ったのか…変わらない振る舞いで再び僕とキヨちゃんの頭を撫でてくれる…


「…政宗様もこう仰ってんだ
行ってこい…
早めに済ませるようにな…

……一応、護衛も
付けさすから安心してろ」


頭を撫でてくれた後
小十郎さんが促すよう
背を押してくれて
それが行く切り出しとなり


「……、それじゃあ…
なるべく早く帰りますね…」
「やったぁ!お兄ちゃん早く行こう!おっ母、行ってくるね!」

「この子は全く…余り
聖さんに迷惑を
掛けるんじゃないよ?」
「はーい!」

「行って来ます」


キヨちゃんに手を引かれながら
僕達は裏山に向かう事になった


……そんな後ろ姿を見ていて
姿が見えなくなった頃
政宗様は、ふと
何処とも無く一点に声を向け




「おい、居んだろ…」
「……………」

―シュタッ…
「はいよ、お呼びで?」
「……………」

「…分かってんだろ
猿飛、上杉の忍……」
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