〜尊いし眸〜

□十参章
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 米沢城、縁側 朝、申の刻限にて




―――チュン、チュンチュン……

「……使いの人…多いの…か」


 雀との戯れは日常化…

あれ以来。豊臣軍の夜襲、兼竹中半兵衛さんに出会って
色々あったが…無事に僕達は奥州には戻ってきた。


 それから、二日は経っただろうか
…あれ以来は政宗様とは話せてない

 否、話辛い…それに未だ巨大な鳥による
事件の真相を聞きに来たがる武将は山程居るようで

 伊達軍は今も慌ただしいから…。


「聖、足首を見せてみろ」

「ぁ……はい…」


 更には僕の回りにも前より見張り…
というか警護、それが厳重になって、今
僕を見てくれてるのは小十郎さんだった。


「……問題無く歩けるのは幸いだが…傷痕は残る…すまねぇな…」

「小十郎さんが謝ることはありませんよ…痕なんて
気になりませんし…足首なら丁度見えません…
動くのにも問題はありませんから……ほら、どうですか?」
――タンッ…トットッ…


 縁側から立ち上がり小十郎さんの前で
軽く片足飛びを見せてみれば
フッと珍しく笑みを浮かべてくれた。


「…異常が無いなら良いがな、あんまり
無茶はしてくれるなよ…また政宗様が心配するだろ…」
「…!…、そう…ですね…」

「その調子じゃ…まだ政宗様と話すら出来ていねぇな?」

「…すみません…」

「…謝るな…お前が悪いんじゃない
ただ…政宗様を嫌いにならないでほしい…」

「!? なりません!……嫌いになんか………なれません…よ」


 俯きながら、政宗様の事を考えた
……あの人は何で僕なんかを拾ってくれたのか
何で、あの時…死ぬなとか言ってくれるのか…。


「……聖、一つ聞いて良いか」

「はい」


 そう言うと、小十郎さんは一息付いて
僕の頭を撫でるが…しかし、その瞳は愁いを帯びて


「…別世界の人間が…この世で『生きる事も辛い』…か?」

「!……どうして…ですか」

「まぁ…俺の目にはな…初めてお前と出逢った頃よりも
『生』に対する執着心や覇気が見えねぇんだよ
蔑ろにしてるってより…どうしたらいいか分からない感じでな」

「…………」


 小十郎さんに見透かされた…そんな気がした
…生へ無くした希望、執着心か。流石は竜の右目…。


 僕にそんな彼の優しさを受け取る資格
そんなモノなんてあるのだろうか、あったのだろうか


「……始めて…でした…」

「?…」

「僕は……政宗様達の身内とか…そんなのじゃないのに
……なのにあの人は僕が勝手に…『死ぬ事は許さない』
そう怒ってくれるなんて、思いも…しませんでした…」


 僕の考えではそうだった、自分が
何処で死んだ所で誰も悲しむ人間なんて居ない

 ずっと…そう思ってた…そんな人も居ないから。


「…当たり前だろう…聖……伊達の身内が
自ら死を選ぶなんざ、悪いが俺でも怒るぜ…?」
「…小十郎…さん……」


 だから…どうでも良かったのに…あの人は
―――…この人まで…双竜は…なんでそんな目をしてくれる。


「政宗様は奥州を統べる主………いや、何時かは天下をも統べる御方」

「……………」


 撫でられていた手を降ろされると、今度は以前
政宗様に叩かれた頬を撫でられて、少し恐怖と
条件反射的なもので肩を揺らしながら驚きつつ…


「―――……だが、竜の…いや…双竜が大切に飼う小鳥は家族当然
失っちゃ…あの方も俺も終いだ……そんな天下なんて意味が無い」

「!?……けど…僕は…厄介者です……伊達軍の
皆さんには、今でも迷惑を、懸けてますし……」
「懸けられた覚えはねぇぜ My little bird…?」
「っ?!……政、宗…様…」
「……………」


 突然、後ろから声が聞こえたと思ったら、縁側の柱に
背を預けながら此方の見据える着流し姿の政宗様が居た
驚きと少しの恐怖と再び顔を見合わせた嬉しさに思考が惑う。


「HAッ 小十郎の小言に比べたら little birdの
掛ける迷惑なんて悪戯のような事で可愛いもんだぜ?」

「今回は聞き流しましょう……聖…政宗様の元に」

「……は、はい」


 政宗様の言葉に小十郎さんは溜め息を吐く様にして
しかし、どこか見守るような眼差しを僕に向けて
背を押してくれた、それが一歩の後押し…。


「………聖、顔を上げろ」

「政宗様…僕は……」

「悪かった…失う事が恐かった、お前の事も考えてやれないで」

「!……政宗…様…は……謝らないで…下さい………僕は……僕が
…悪くて…。政宗様は…"命の大切さ"を知っているから…当然で…」


 そう、政宗様は…小十郎さんも…命の尊さを知っているから
平和な時代に生きた人間との大きな違いが生に対する物を喪わせた

 戦の中に生きる人は斬ってきたその数…全てを看てきたから。


「HaHa spot less(無垢)だな……。
俺たちは只…護りたいモンを護りたいだけさ……」

「聖、お前は『生きる』事だけを考えろ
…俺らの前で『死』なんざ絶対に考えるんじゃねえ……絶対だ」

「…双竜の傍で、何時までも自由にflyしてりゃあ良いんだ」


 僕を見下ろす二人の目は何時にも増して
真っ直ぐ…鋭く… 優しい眼差しがあった…。






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