〜尊いし眸〜

□十章
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――ドドドドド

「―――…政宗様、そろそろ、この辺りで馬を休ませた方が
…日も暮れて来ましたし…聖の様子から見ても……」
「……ぅ……はは…」

「Ah?……そうだな、もう甲斐は出たか…
んじゃ今日はこの辺りで野営を上げるぜ!」
――ドドドッ……ブルルッ


 信玄さん達と別れて甲斐の領地を離れた頃、何刻か過ぎ
日暮れ具合を見て小十郎さんの申し出に頷いた政宗様は
馬を止め、彼の一言に伊達軍の皆は一斉に馬を止める


「Hey 聖、大丈夫かよ…腰が抜けたか?」

「抜けて…ます…馬さん…揺れますね……腰がと背骨が…」

「ほら…両腕上げろ」
「ぁ…すみません……」


 先に馬から下りた政宗様は次いで馬の上に跨がった侭
ぎっくり腰のようにうなだれてる僕を抱き上げ
降ろしてくれて地に足が付いた瞬間少しグラついたが…


「聖、今の体調は?」

「!…大丈夫ですよ、初めて乗馬出来ましたし
…色々あったけど…楽しめたと思っていますから…」


 何時の間にか小十郎さんが僕の背後に居て
背中を支えてくれて心配させるのは申し訳ないので
大丈夫とは言ったが、上手く誤魔化せたかな…。


「梵!小十郎! 野営準備はバッチリ出来たぜ!」
「おう……。って…成実、部下達が居なくても
その名ではあんまり呼ばねえよう注意しろっつったろ…」

「あっ、やべっ…つい……ま…まぁ…今更良いじゃないの。
あ、聖も…体調、もう大丈夫か?無理してないよな?」

「はい…」

「それなら良いけどさ。……んじゃあ…取り敢えず…そう言う事ね」
「……気が緩むとこれだから」


 そんな時、成実さんの報告に頷きはしたものの
政宗様の事を"梵"と…確か彼の幼名の"梵天丸"

 歳も政宗様と近いし…学も共にした仲…最近会ってもいなければ
文も出す程の仲のように伝えられてるしな、まあ諸説有りだが。

 成実さんと政宗様は従兄弟で兄弟のような仲なのだろう
…小十郎さんも深い注意はしてない分には
親しそうな様子に知らずの内、合間を挟んで
頭を撫でてくれて微笑みが零れる

 仲の良さげは流石は"伊達三傑の一人"と言ったところだろう。


「どうした、聖?」
「仲が良いんだなと……思いまして…」

「……本当なら…もう幼少期とは違う…許されん言動だが
アイツは政宗様が学を学ばれた頃からの仲だからな…
政宗様自身、許されてるから仕方あるまいが…」
「―――…でも…小十郎さんも…」

「……?」

『己の立場もご理解して頂きたい』
と疲れたように小十郎さんは溜め息をつくけど

 何処となく、何時もの威厳のある声音が今は少し柔らかい


「…いえ、やっぱり…なんでもありません」






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