薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□七
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「自決か。敵ながら見事な死に様だな」

「切腹……ね…」


 山頂を遠目で見据えながら薄く笑う副長に対して
俺は溜め息に近い言葉しか零せなかった…
こうなると、長州の人間は何百人と言う死者を出し

 散り去ってしまったことになる

 現代人で医者である俺は何とも言い難い感情しか湧かない
それで責任をとったつもりか否かは
分からないが彼らにとっては、本望なのだろうか…


 武士として切腹し、それが潔しの事なのか…。


「あの……。いいんですか?」

「新選組としては良くねえよ。
奴らに勤めを果たさせちまったんだからな」
「えっと……」

「潔さを潔しと肯定するのに
敵も味方もねえんだよ。分かるか?」

「わかるような、わからないような、です……」

「…………」


 千鶴ちゃんの答えは、俺も同じだ…そんな答えを聞いた
副長は何故か表情を柔らかくして千鶴ちゃんから俺に視線を向け


「…縁…お前はどうだ?」


 そんなこと聞かれても…俺は武士の立場じゃない
…千鶴ちゃんも武士ではないが彼女は人の命の重さを知っている…

俺は医者であっても、彼女ほどに慈悲深い
そんな優しい感情は持ち合わせはいないが……

 人の命の重さなら分かる…武士道とかも、一応は。


「…武士としては潔く果てたなら彼らは本望なのでしょう…が
医者としての意見なら…それは命を粗末にした、無駄死」

「ふ……厳しいこった」

「そうですね…。ですが、仮に武士としての考えに因るなら
……個人としては彼らの個の遺志を尊重します……皆、最初は
この国を純粋に守りたいと願っていた筈の同志だったのだから
…守りたい物は同じでも、そこまでの道には擦れ違いはあれど…ですね」

「「「「「!!……」」」」」


 この時、副長や隊士達がこれ程にもなく
驚いていた事を知らない…何故か遠くに見える夕闇の天王山

 俺も素直に思った事を口にした…
武士には武士にしか分からない事はあるだろうが

 それでも…俺は医者としてならば
憐れむだろう、しかし武士の立場見なら
俺自身の気持ちでも散っていってしまった
長州の人達の遺志、尊重する事は出来る。


 先の未来を知る人間として…。



「……縁……お前は、医者としても武士としても…立派な奴だな…本当に」
「……新八」

「…お前らしい言葉だよ…そう言う風に
言ってくれる奴が居るなら、長州の奴らだって本望だろう…」


 新八には頭をガシガシと撫で回され
副長には納得したような笑みを向けられて
徒かも、隊士達まで俺の答えに頷いていて内心戸惑った。


「…縁さん、今すぐ私に手当てをさせてくださいっ……血が…」

「……ぁ…」


 千鶴ちゃんが助け舟を出してくれたかのように
今の話しを逸らしてくれて助かったが、彼女の向ける
目線の先は俺の腕…羽織りや指先には異様なる
銀の血を怪我と言って千鶴ちゃんは心配してくれていた。


「お前っ、まさかあいつに腕をやられたのかよ!大丈夫か!?」

「……あ〜…副長の所為で傷口が開いた」


 千鶴ちゃんには手当てをしてくれる事に礼を述べ
新八には大丈夫だと宥めたが、副長には
先程お構いも無しに握られた傷口の恨みに
嫌み口調を飛ばせば案外すんなり謝られて

 少し、つまらなかった…。





―――…改め新選組は他の者達と合流する為、天王山から
御所へと戻る事になったが帰りの道中も
今後の動きについての相談が止む事がなく


 これから先も新選組は忙しくなりそうだ…と


 千鶴ちゃんと俺は端間にそんな会話をしていた…―――。














天王山編 完
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