〜尊いし眸〜

□弐章
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 聖が伊達政宗、伊達軍に拾われて
あれから三日目の夜が経った頃だった…。


「峠は無事に越えました…この子は良く頑張りましたよ。
きっと、皆さんの頑張りがあってこそですね」

「はぁ…そうか…」
「…政宗様、無事に助けられ良うございましたね」

「Ah…」


 部屋から出て来た伊達家一族に代々仕える
掛かり付け医の言葉に政宗と小十郎は心底、安堵

 この三日間、聖は病変が悪化したり、しなかったりと
波が激しく一時も気が抜けない何とも言えない三日だった


「ひっ…筆頭ぉぉ〜…良かったスね…俺…安心したら涙が…っ」

「…本当…良かったぜ…一時はどうなるかと………くうぅ…っ…」

「良かった……良かった…っ」


 だが、皆の懸命な看病の甲斐もあっての事
噂を聞きつけるや否や。軍の総出で聖の事を
一目見ては気に入ったらしく看病の手伝いにやってきて
そして伊達軍の大半は、この言葉に涙した。


「……政宗様、片倉様…今、お声を掛ければ
早くに意識を取り戻すやも知れませぬ…どう致します?」

「!……この際か、何もしねぇよりはマシか」
「……、参りますか?」

「Ah……。悪いがお前らは待ってろ、仮に
起きてもこの大人数…流石に驚いちまうだろうからな」


 政宗の言葉に部下達は『分かっていますぜ!』
と、涙ぐみながら政宗達の背を見送る……皆
勿論聖の起きた顔を見たいと思ってはいたが、一番
心配していたのは聖を拾った政宗と小十郎なんだと理解していた為





* * *

 所変わって此処は客間…政宗達が聖を暫く療養させる為
用意した部屋…本当は部下達からも
目を離させるつもりでいたが、その必要も今やなくなっていた

 寧ろ気に入り始めた物、隠し通す必要はどこにも無い。


「……、落ち着いて眠ってらっしゃいますね……
顔色も最初に出会った頃より、良くなっている」

「嗚呼、熱も下がってるようだ………良かったな」


 政宗はそっと聖の額に掌を乗せると、熱が無い事に
安堵し小十郎も知らずの内、何処か優しい
眼差しを向けていた…それは政宗が向ける目によるもの。


「………、…」
「!……今…」

「はい…確かに……政宗様…お声を掛けてみては?」


 しかし、ふとして瞼が小さく動いた
…多分…微かな意識が戻りかけている前兆か
そう悟り促した小十郎に、政宗も頷く


「…そうだな。……オイ……俺の声が分かるか…?」

「……、………」


 政宗が声を掛けると再び動く瞼、小十郎が静かに見守る中。


――――…僕の耳にはちゃんと声が届いてた…男の人の声だ


 誰だか分からないけど
…多分、何度か知っている声…。


 力強くも何処か心としていて、この長い間
夢現の中、何とか返事をしたかったのに…
喉から声を振り絞ろうと、口から
言葉を紡ぎ出すことは出来ず、何も動かなかった


 だけど、今なら動きそう…。




 意識を覚醒させる事だけに神経を集中させ、瞼を動かした。




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