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ロマンス 第16話†


決めたことが、ひとつ。

消せない気持ちは
もうどうしようもないから。






「で、どうしたんや?」

学年主任の江藤先生に詰め寄られる。
そう、予定表と違う場所に行ってしまったことが案の定バレてしまったのだ。
千秋先生の言う通り、GPSの着いたケータイが二条城ではなく清水寺にあったことを、先生達にバッチリ確認されていて。
こうやって夕食の前に呼び出され、他の班がぞろぞろ通っていく廊下で説教を食らっているのだ。


「なんで清水寺行ったんや」

私達は何も言えないでいた。
言えるわけもなかった。



千秋先生、誤魔化してくれるんじゃなかったのかよ?

小さな声で峰くんが毒づく。
確かに昼前、千秋先生はそう言ってくれたけど…


「オイ、何こそこそしとんや」

めざとい先生に咎められて肩を竦める。


何て言おうか…
しかしそんなタイミングで、ようやくフォローが入ってきた。


「江藤先生」

「ん、あぁ千秋先生…どうしたんですか」

「彼らの携帯は、昼まで私が持ってました。部屋に忘れていたみたいだったので、私が一旦預かって、昼の移動の際に渡したんです」


なんて嘘がペラペラと。
そうなんか、ちゃんと報告入れてくれんとなぁ、江藤先生が少し責めるけれど、千秋先生は謝り続ける。

「報告が遅れてしまって申し訳ありませんでした」

私達の為に嘘までついて謝ってくれる。
さっきまで軽く毒づいていた峰くんも、なんだかキラキラした目で先生を見ていた。


「お前らも、ちゃんと言わなアカンやろ。忘れんように気ィつけとけ」

江藤先生はそう言って、ようやく私達を解放してくれた。
先生の姿が見えなくなってから、

「悪い、フォローが遅くなった」

なんて言って千秋先生が謝ってくる。

「なんで先生が謝るんデスか!」
「そうだよ、むしろ俺らが謝るべきだよな、ここは」
「千秋先生、ありがとうございます!」

各々が謝罪やお礼を述べると、先生は少しだけ笑みをその表情に浮かべた。

「まぁ、半分俺のせいだしな」

小さく聞こえないくらいにそう言って、私の方を見る。
目が合ってドキリとするのは、昼間泣き顔を見られたせいだろうか。


「入浴時間、遅れんなよ」

合わせた目線はほんの一瞬で逸らされたけれど、私の頬はほんのり熱が残る。
他の生徒と挨拶を交わしながら去って行くワイシャツの背中を見て、なんだか無性に抱きつきたくなった。
(抱きついたことなんてほとんどないけれど。)


「やっぱり格好良いわねぇ、千秋先生」

真澄ちゃんのそう漏らした言葉に誰も返事はしなかったけれど、全員が心の中でそれに賛同しているのは、確認しなくてもよく判った。

さっき先生が小さく呟いた台詞に、みんなは気が付いただろうか。
一瞬合った目にはどんな意味が込められていたのだろうか。


変な期待は持たない。
持てない。

今までの私だったら、きっとあれくらいで浮かれていた。
今の私がそうなれないのは、確かな覚悟を心に決めたからだと思う。
自分の考え方がどれだけ幼稚だったのか、自分の言動がどれだけ先生を悩ませてきたのか、
この2日ではっきりと判ってしまった。



「清良ちゃん、お風呂行きましょ」

頷いた清良ちゃんに微笑みかけて、2人の部屋へと足を踏み出す。
またあとでね、と峰くんたちと別れてから、しばらく無言の時間が過ぎた。


「…のだめちゃん」

沈黙を破る彼女の声は、まさに意を決して発されたもので、なんだかこっちまで気負ってしまう。

「本当に、大丈夫?」

さっきから何度も何度も問われる質問に、毎回毎回同じ答えを返す。

「大丈夫、デスよ」

本当に?
そう疑う瞳から目を逸らしながらの答えは、何度言っても納得してもらえない。

「なんかやっとスッキリしたんデス」

これは本当。
…ただ、それだけではないのだけれど。

「ずっと、何でのだめじゃ駄目なんだろうって、図々しく考え過ぎてたんデス」

その考えは、まるで4年前の彩子さんのようだった。
若い、幼い、浅はかな考え。
自分の行動には責任を持つ必要がある、なんてことを知らないまま、能天気に生活していた。

それが周りの人にどんな影響を与えるかなんて、全然気付かなくて。

一番大切な人に火の粉がかかって初めて気付く。


“若かったから”
そんな理由で逃げ道を作りたくなんかない。
大切な人に、辛い想いなんてさせたくない。
傷つけたくない。
二度と、傷つけたくはない。









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