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□仮入部
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今日から1年の仮入部期間が始まった。

野球、サッカー、テニス、陸上などの運動部をはじめ吹奏楽や調理、美術などと言った文化部の部活もあり、正によりどり緑だ。
放課後、色々な部活を見て回ったのだが
いまいちピンと来るものが無かった。


(やっぱり、大好きなバスケに関わりたい…!)


そんな強い想いを胸に、
綾は一心不乱に体育館へと向かった。
お気に入りのバッシュに履き替え、いつもの様に一礼をする。
このバスケットコートは彼女に‥いや、全選手にとって勝敗を決める大切な場所。
元々真面目な性格もあってか、本人には当然の行為なのだ。


「失礼します…」


「! あ、もしかして仮入部のコ?
私はマネージャーの彩子。よろしくね。」


「は、はい!よろしくお願いします!」


( わぁ、この彩子って人…すごく美人。憧れちゃうなぁ。)

(あれ…?)


ふと辺りを見渡すと、隅っこで不満そうに基礎練習をしている桜木と
巧みなプレイを着々とこなす流川の姿が目に入った。

慣れた手付きで自由自在にボールを操り、綺麗なフォームにより放たれた一本のシュート。
まるで吸い込まれるかの様に爽快にゴールネットをくぐっていった。


「ナイッシュー!楓くん!」


「!!」

「「 …!? 」」


慌てて名前を呼ぶ方を振り返ると

そこには

笑顔でこちらを見つめる彼女の姿が‥‥


流川は表情こそ変わらないが、内心嬉しくて仕方がない様子だ。


(…アイツ……)


そして、館内中の視線が彼女に向けられた。


「…綾さん!」

「「 誰だ? 」」


思わず声が出てしまっていた事に気付き、ちょっぴり恥ずかしくなってしまった。


「あ…ごめんなさい、つい…」


すると、キャプテンの赤木がこちらに近付いて来た。あまりの重鎮・巨体ぶりに一瞬だけ怖気付いたが‥‥


「流川の知り合いか…?
まぁいい。バスケットが好きな人間に悪い奴はいないだろうからな。
ゆっくり見学して行くと良い。」


「はい…ありがとうございます!
1年の春野綾と申します。喜んで見学させていただきますね!」

綾は丁寧にお辞儀をした。


(…ふっ、しっかりした娘だ。)


その後、休憩時間に入ると
桜木と共に眼鏡をかけた優しそうな男性がこちらに歩み寄って来た。


「やぁ、初めまして。
俺は副キャプテンの木暮。君は?」


「は、初めまして…1年の春野綾です。
大好きなバスケに関わりたくて、見学させていただいています。今日は仮入部としてですが、よろしくお願いします!」


「あぁ、よろしくな。」


「ふっふっふ…メガネ君!何を隠そう、この綾さんと天才・桜木は同じクラスで、友人でもあるのだ!」


「へぇ〜、そうなのか。」


「桜木くん、さっき隅で
一生懸命練習してたね。バウンドの基礎練?」


「そーっす!まぁ最近始めたばかりですが、今に奴等を蹴散らしてみせますよ!ガーッハッハッハ!!」


大笑いをする桜木。

だが、次の瞬間‥!


ドゲシッ!

「!?」


「るせー、テメーはすっこんでろ。」


流川に足蹴りを喰らった桜木。


「さっ、桜木くん…!大丈夫…!?」


「ぬっ…!ルカワ!何しやがる!!
この天才・桜木に向かって!」


綾の心配をよそに、桜木はピンピンしている。
何かと対立する二人に木暮はオロオロと慌てふためき困惑しているが、赤木はやれやれ‥と言った表情で呆れ果てていた。

無視して綾に向き合う流川。


「…どあほぅが感染る。コイツとは喋るな。」


「え…?でも…」


「あ"ぁ!?なんだとこのキツネ!!」



「…俺の事だけ、見てろ。」



「「 !? 」」


「え…楓くん…?」


告白とも言わんばかりに紡いだ言葉の意味は、果たして‥‥?


「えっ…?うーん…
楓くんだけを見てるのはちょっとなぁ。桜木くんの成長ぶりも見て行きたいし。

それに私、皆と仲良くなりたいよ……」


「…!?」


「綾さん…?」


(もー、あのコったら…鈍いわね……)


「それより、ケガはもう大丈夫なの?」


「……おー、ダイジョウブ。」


「そっかぁ、良かった〜!
もうケンカなんてしちゃダメだよ?
次は手当てしてあげないからね。
練習頑張ってね、楓くん!」


「…うす。」

(やっぱりコイツは、どあほぅだ。)


(ぬ…!?手当て?
綾さんがキツネに!?
ゆ、許さん…!!)

メラメラと嫉妬の炎を燃やす桜木。

何はともあれ綾が見ている以上、失敗は出来ない。
彼女の声援を受け流川のモチベーションも上がるのであった。


(流川、アンタには同情するわ…)


その一週間後、綾は晴れて正式な部員となった。

(マネージャー業、頑張らなくっちゃ!)
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