long
□差し入れです!
1ページ/1ページ
土曜日‥ーー
ここは海南大附属高等学校。
綾は湘北高校の制服を身にまとい、体育館へとやって来た。
( 一応、差し入れを持ってきたけど…みんな喜んでくれるかな? )
その中身は‥と言うと、袋いっぱいに入った部員全員分のスポーツドリンクと予め自宅で仕込んでいたレモンの蜂蜜漬け。
綾は料理には少し自信があり時々こうしてサポートに来ているのだ。
(ゔぅ…それにしても重い……ちょっと気張りすぎたかなぁ…?)
うんしょ、うんしょと運んでいる途中、背後から明るい声が飛んできた。
「あっ、春野さーん!!」
振り返ると、彼女と同い年の1年生・清田信長がダッシュでこちらに駆け寄って来た。おそらく走り込みの途中なのであろう、全身が汗でびっしょりだ。
「清田くん…!」
「お久しぶりっす!
もしかしてこれ、差し入れですか?俺が体育館まで持って行きますよ。」
「えっ…悪いよ。それに結構重たいし…一人で持てるから大丈夫だよ〜。」
清田は荷物を軽々と持ち上げ、笑った。
「いいからいいから。何てこと無いですよ。ここは男に任せた方が賢明っすよ〜!」
「じゃあお言葉に甘えて…
疲れてるところ、ごめんね。どうもありがとう。」
そのまま二人は他愛も無い話をしながら並んで体育館へと向かった。
ドアを開けると、さすが強豪校と言わんばかりの凄まじく‥‥且つ激しい練習風景が広がっていた。
綾は手持ちのバッシュに履き替え、一礼をした。
「し、失礼します…!」
「じゃあ春野さん、いつも通り休憩までそこのベンチにでも座って待っててくださいね!」
「うん。清田くん、本当にありがとう!」
ベンチに荷物を置き、清田も練習に戻って行った。
館内では部員達による気合いの入った掛け声やボールのドリブル音にバッシュの軋み、そしてゴールネットをくぐり抜ける爽快な音色が鳴り響いていた。
また‥この群衆の中には" 愛しの彼 "こと、恋人である牧の姿があった。
極力邪魔をしない様に心がけている綾は時間まで待機する事に。
「よーーし!休憩だ!」
主将の牧が皆に向かって号令をかけた。
「「 うーーっす!! 」」
「紳ちゃ〜ん!」
「! 綾、来ていたのか!」
小走りで牧の元へと駆け寄って来た綾。その姿に思わずフッと笑みが溢れる。
高身長の男達を前にして少し緊張するとともに、汗まみれの彼が放つ男の色気にドキッとした。
( し、紳ちゃん…カッコいい…… )
「…練習お疲れさま。差し入れを持って来たの。皆さんも良かったらどうぞ!」
と、人数分のタオルやドリンクなどを部員達に手渡した。
「「 あざーーっす!! 」」
「いつも悪いな、綾。
重くて大変だっただろう。俺が運んであげられれば良かったんだが…すまん。」
「ううん、大丈夫だよ。謝らないで。
紳ちゃんは皆をまとめるキャプテンだもん。忙しくて当たり前だよ。
それにね、これは途中で清田くんに会って持ってもらえたの。
男の子って力持ちだよね!」
「「 …!! 」」
とびきりの笑顔でそう話す彼女に、部員達は意表を突かれた。
もしかして、キャプテンの彼女…!?
あの帝王・牧さんの!?
やべ、むっちゃ可愛い…!
驚きを隠せない新入部員達。
今回の件ですっかり有名人となった綾。
「そうか…清田が…
清田、俺からも礼を言わせてくれ。ありがとな。」
「カッカッカ!
当然の事をしたまでっすよ、牧さん。
それより春野さん!このレモン最高っす!」
「本当?良かった〜!」
「綾ちゃん。俺もいつも差し入れ、感謝してるよ。ありがとう。
これで後半も頑張れるよ。
さすが牧さんの彼女さんですね。」
「おう、俺もだ。」
「俺も!」
「先輩達…どういたしまして。
皆さんも、練習頑張ってくださいね!」
その後‥牧と綾以外の部員は各々で水分補給やストレッチなどをしたりと、僅かな休息を取っている。
彼と話せる束の間のこの時間が綾にはとても嬉しかった。