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□恋していいですか?1
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春の丁度いい気温と学校内に咲く桜とで、気持ちよくなって思い切り背伸びをする。
「う〜んん、ふわぁ…」
大きな欠伸を1つして開かない目をこすった。
眠いなあ。昨日の夜は遅くまで友達との電話が盛り上がっちゃったもんな。
1年から2年に上がったばかりで授業が緩いのが助かった。どっかで寝ちゃおうかな。
なんて考えていたからバチが当たった。
「うわっ!?」
背中に衝撃を感じて地面に膝から崩れ落ちる。
「やべっ…!ごめん!」
そう聞こえてジンジンと痛む膝から声のした方へと視線を動かした。
「大丈夫…?」
あ、この人知ってる。かっこいいって学校内で有名な加藤先輩だ。
そんな人にぶつかられたなんて私なんかすごくない?友達に自慢出来るじゃん。
「…は、はい、大丈夫です。このくらい気にしないでください」
そう言って立つと目の前に綺麗に畳まれたハンカチが差し出された。
私の前に立っている加藤先輩ではない。腕の伸びている方を辿るとそこには心配そうな顔をした、これまた有名な増田先輩がいた。
え、なにこの状況?こんなとこ女生徒に見られたら私ボコられない?
「膝、血出てるから…これ使って?」
「え、いやいや…使えないですよ!」
「遠慮しないで、血垂れてるから」
靴下汚れるよ、そう言って増田先輩は自分のハンカチを私の膝にあてた。
ひえっ…殺される(増田先輩のファンに)!
「とりあえず水道あるとこ行った方が良くね?」
「そうだな。きみ、歩ける?」
「歩けます、歩けます!」
私は加藤先輩と増田先輩とに連れられて水飲み場まで歩いた。
何だろうこれは…。いい夢?こんなことクラスの子達に自慢したら私何されるか分かったもんじゃない。やっぱ話すのやめとこかな…。
水飲み場に着くと増田先輩が水で濡らしたハンカチで私の膝を拭こうとしたので即お断りさせて頂いた。
「じ、自分で出来るので…!」
「そう?」
「はい。ハンカチ…お借りします」
「どうぞー」
増田先輩はにこっと笑いながらハンカチを差し出してくれた。
うわ、すごい良い笑顔…。かわいい。私転んで良かったのでは?
「女の子に怪我させるなんてダメだよな…本当にごめん」
「だから前見て歩けって行ったのにさぁ、シゲが聞かないから」
「本当に気にしないでください、大丈夫なので」
「何言ってるの?もっと自分を大事にしないとダメだよ?」
そう増田先輩の口から出た言葉。なんだか心が暖かくなった。
「…ありがとうございます」
「ねえ、きみ…」
保健室行こうよ、加藤先輩がそう言ってくれたのは嬉しかったけれど、これ以上は耐えられないと1人で行けます、と逃げるようにその場を離れた。

保健室で治療して貰っている時に気がついた。
増田先輩のハンカチ、いつ返せばいいの?
洗って返すのは大前提として、どのタイミングで先輩に返せばいいんだろう。
人気者の先輩は休み時間も友達や女の子たちに囲まれてるはずだし。
3年生の階になんて行く勇気もない。
どうしよう…。
「はい、苗字さん終わったよ」
「ありがとうございます、先生」
失礼しました、と保健室を出て教室へ向かう。
途中で友達のはるちゃんに出会った。
「おはよーナマエ」
「おはよー」
「何?その両膝どうしたの?」
「いやぁ…まあ、転びまして…」
加藤先輩のファンのはるちゃんにはやっぱり言えなかった。今朝あったこと。
だって言ったらいつものように軽く頭叩かれるだけで済むか分からないんだもん。
「マヌケだね〜!両膝ってさ〜」
「ははは、そうなんだよね。ちょっと恥ずかしくって」
上手く誤魔化せただろうか。はるちゃんの様子を見るに誤魔化せたように思える。ひと安心。

ハンカチ、増田先輩にどうやって返そう。
そればかり考えてしまう。私があの先輩に近づける方法はあるのだろうか。
移動教室の時とか廊下や階段ですれ違う時は今までも何回かあった訳だしチャンスが無いわけじゃない。周りに怪しまれないようにハンカチを返す、うん。頑張るぞナマエ。
それにしても、増田先輩の笑顔ってあんなに破壊力すごいんだ。
いつも加藤先輩目当てのはるちゃんと遠巻きから見てることしかしてなかった。
もちろん、遠巻きからでも素敵な人たちだとは思っていたけど。
近づくと圧倒的なキラキラ感。アイドル。本当にかっこよかった。
そんな人からハンカチを貸してもらえたなんて一生の思い出な気がする。
「う〜〜〜」
増田先輩の笑顔を思い出してはなんだか堪らない気持ちになる。
「はぁ…」
授業どころじゃない。英語の先生には申し訳ないけど今日は全く頭に入ってない。
いつもはもっと真剣に授業聞いてるんですよ?今日だけは許して、先生。
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