Short story

□merry merry
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何故だろう、いつもいつもパーティーの真ん中にいるような彼が、たくさんの友人達に囲まれ笑顔を浮かべているような彼が、今、わたしのとなりに居る。

「なあ、それ面白いのか?」
「……えっあ これ、本?面白い、ですけど」
わたしは、と見るからに戸惑いながら答えると、彼はそっか!と笑顔を向けてくる。

「おれの兄ちゃんもそういうのばっか読んでてよ!おれは難しくてよくわかんねェけど、すっげェ楽しそうだったから聞いてみた!」

まるで発言が脳内を通らずに口から出ていくような話し方が特徴的な彼。

「……そう、ルフィくんは本とかあんまり読まないの?」
「ん〜〜〜〜世界地図とかはよく開いたりするぞ、旅行してる気分になるんだ」
「ふふ、楽しそうでいいね」

彼は不思議なひとだ。わたしにも、誰にでも、分け隔てなくその笑顔を、陽だまりのようなやさしさを向けてくれる。


「ナナシは今日のクリスマスパーティー行くのか?」
「…わたしは、行かないとおもう。大人数って、苦手で」
「?楽しいじゃねェか」
「みてるのは楽しいんだけどね、今日は帰って本の続きを読みたいの」

12月25日を家族以外のだれかと過ごしたことなど勿論なく、彼にはこの気持ちはわからないと思うけれど、なんて卑屈な心が見え隠れしてしまう。


「じゃあね、ルフィくん。世界地図、今度わたしにも見せて」

そう告げて返答を待たずにわたしは鞄を持って大学を後にした。



_____



その夜は、彼に言った通り部屋で本を読んでいた。クリスマスに父から貰ったスノードームに目をやりながら、もしも今彼と過ごせたら、なんて恋心にも似た感情が募ってしまう。


「(……あの人とわたしは、違いすぎる)」


嫉妬や憧れなどではなく、ただただ、悲しくなった。彼の周りにいる女の子たちのように可愛く笑えたら、なんて、無理に決まっているのに。



ピコン

【 Open the window! 】
( 窓開けて! )

彼からのラインにわたしは驚きながらも立ち上がり、カーテンを開ける。窓を開き、下へと目をやると彼がにひひと笑いピースしていた。


「ルフィくん!?」
「クリスマス持ってきた!!」
「へ?」

言っている意味が理解できないまま、とりあえず、と上にコートを羽織り玄関を出る。家の前に居た彼へと駆け寄りどうして、と口を開きかけたその瞬間、目の前に差し出されたのは小さなクリスマスツリーだった。

「か、かわいい」
「いいだろこれ!本読むのも楽しそうだったから止めなかったけど、やっぱクリスマスは特別だろ??おれ好きなんだ!」

好き、の言葉に心臓が跳ねる。わたしのことではなく、クリスマスのことを言っているというのに、どうしようもなく体温が上がっていき。

「……わたしの、ために?」
「うん、おれがおまえにこれやりてェって思った!だから来た」

彼には、思ったことをもう一度考えてから口に出すという過程を踏んでほしい。あまりにもまっすぐにわたしへと伝えてくるものだから、心臓がもたない。


「キラキラで、すっごく綺麗」
「気に入ったか?」
「うん、とっても。ねえ、ルフィくん」
「ん?」
「鼻が真っ赤、よければ上がっていかない?あったかい紅茶でも飲んで行って?」

下心がないといえば嘘になるけれど、精一杯の勇気で彼をわたしのクリスマスに誘ってみた。


「いいのか?」
「も、もちろん。これも飾っていっしょに、パーティーしよ」
「!おう!そうしよう!!」

嬉しそうに笑った彼を玄関の中へと通し、リビングルームへと案内する。

「おじゃまします!」

玄関から入る時、リビングルームへ入る時、その都度お邪魔しますと似合わないくらい丁寧に挨拶する彼にまた笑みがこぼれ。

「パーティー、抜けてきたの?」
「うん、楽しかったけどな!おまえにこれ早く見せてやりたくて!」

彼がリュックから取り出したのは分厚い世界地図の本だった。

「!」
「今日帰る時言ってただろ、見せてって」
「っふ、ふふ、」
「何で笑うんだ??」
「あははっ だって早すぎ、ルフィくんってほんとおもしろい」

素直な彼の行動につい人差し指で涙を拭きながら笑ってしまった。

世界地図のページを開くたびに、楽しそうに説明してくれる彼。指をさし、これが美味しい、あれは楽しい、それは行ってみたい、と様々な世界が頭の中に広がっていく。


「ルフィくんが隣に居たら楽しいだろうなあ」
「?今居るじゃねェか」
「こういう国に行ったときだよ。いつか一緒に行ってみたいなって」

彼に感化されいつもより素直に、心のままに言葉を告げてみた。彼は、ニッと笑い、本を閉じる。

「連れてってやる、どこだって!」
おれもナナシが居たら嬉しいしな、とわたしの緊張など御構い無しに、彼は心を乱してくる。

特別な聖夜に、彼がまた数段と、
わたしの特別な人へ変わっていく。


End.


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