Short story

□her magic
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およそ、女性に困ったことはなく、今まで付き合っていた彼女とも円満に関係を終わらせてきた。就職活動も終わり、卒業へまっしぐら、といったそんな中、街はイルミネーションや赤い服をきた男の飾り物、オルゴールのような神聖な雰囲気を醸し出すBGMで包まれる。

「……もうすぐクリスマスか」
「おまえがなんの予定もないの珍しいな」
「そんなことないだろ」

兄弟であるエースの発言を否定すると、ははは、と笑われる。

「まあおれも人のこと言えねェけど。」
「いつもおまえが話してるクール系の美人誘ってみりゃいい」
「ふざけんな。誰がアイツと」
「……その割に最近はその子の話ばっかだけどな」

クリスマスまであと3日、特段焦っているわけでも彼女が欲しいといったわけでもないので、自宅でなにをしようか今から思考を少し巡らせた。



______


「あれ、サボさん」
「お、奇遇だな。彼氏とデートか?」

やってきたクリスマス当日、本屋に出向くと大学の後輩である彼女がおれを見つけ声をかけてきた。影で可愛いと噂されているものの、本人は全く知らずに無垢な笑顔を悪戯に振りまく。

「彼氏いないの知ってるでしょ、参考書買いに来たんです。」
「クリスマスに?」
「クリスマスに。ひとりで」

正直驚いた。彼女のようなタイプの女の子が、ロマンチックな思考も持たずに聖夜に勉強とは。人は見た目で判断するものじゃない、とこの歳になって痛いほど感じる。

「サボさんは誰かと?」
「ああ、いや、おれも一人なんだよ。これから勉強するなら付き合おうか」
「ほんとに?!嬉しいです、丁度わからない単元があって」

サボさんは多分得意なところだから、と心から嬉しそうな顔をする彼女。何回か話したことがある程度でこんなに近くで彼女をみることがあまりなかったため、ああこの笑顔をみんな好きになるのか、と妙に納得してしまった。

「どこでやります?」
「おれの家近いんだ、兄弟たちももしかしたら帰ってくるかもしれないけどそれでよければ」

おれも彼女も、ただの先輩後輩という関係。何の下心もなく、彼女を3人で住む家へと招いた。








「……わ、結構広いんですね」
「じいちゃんがおれたちに、って用意してくれたんだよ。孫馬鹿だろ?」

困った人でさ、と笑うと彼女も笑い返す。

「紅茶とかあったかな。探してくる、あのソファに座ってて」

彼女ははい、と答えて鞄を持ち直しテレビの前のソファへと座る。さすがに男として部屋へは連れていけないため、リビングルームに彼女を通したのだ。


「………」
「あったあった。多分、元カ……友達が!置いてったやつだ。」
「……そう、なんですね。ありがとうございます、いただきます」

彼女はおれから紅茶を受け取り、座りながら丁寧にぺこりとおじぎをした。


「じゃあ、始めようか。どこが苦手なんだ?」
「はい、えっと、」

いそいそと教科書と参考書を取り出し、テーブルへと並べる彼女。少し先ほどより様子がおかしかったことには気づいていたが、気を遣わせるのも悪いため、何も告げずに勉強会を続けた。









「うん、正解。このへんは引っ掛けでよく出るから見直しておいた方がいい。」
「ありがとうございます!助かりました。長く居てもご迷惑だろうし、わたしそろそろ、」
「待って」

去ろうとした彼女を呼び止め、振り返る彼女へまっすぐ言葉を投げかける。

「おれに何か聞きたそうだったけど」
「……あ、え、っと」
「……いや、ごめん困らせたな。駅まで送るよ、車出す」
「サボさんは紅茶飲む感じの女の子がすきなんですか!?」
「はっ?」

突然の質問におれは立ち尽くす。目の前に立っている彼女の顔は真っ赤で、少し目は潤んでいるように見えた。

「わ、わたしも、お砂糖入れれば紅茶は飲めるけどどっちかというとココア派で。でもそういう女の子が好きならわたし頑張って紅茶が似合う女の子に、」
「待てナナシ、えーっと、どうした?」
「……だって、釣り合いたいから」

どうやら彼女は紅茶が元カノのものだということに対して、思うことがあったらしい。ということは、だ。彼女はおれのことが、


「……あ〜…それほんと?」
「ほんとです、嘘なんかつかない」
「相手間違えてるとかは」
「ないです、サボさんがすきです」

ここまで言わせておいて、答えない男などいるのだろうか。


「……ココアなら確かルフィのがまだ残ってる。まだ時間あるなら、もうちょっと話したいんだけど、」
「!」
「今年のクリスマス、おれが貰っていいん、だよな?」

ほおを掻きながら彼女の方へ振り向けば、目を丸くする彼女。まるで魔法にかけられたかのようにふたりは互いの心を理解し合い、静かな聖夜はこれから始まる。

End.


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